Research Abstract |
Bombyx mori(鱗翅目;カイコガ)の未交尾オス体内では,精子は運動能・受精能を持たない未成熟な状態で貯蔵されているが,射精に伴いメスに移行すると活性化され,成熟状態へと変化する。この変化は,オス生殖腺末端部の前立腺特異的に存在する精子活性化因子・イニシャトリンによって引き起こされる。前年度に引き続き,イニシャトリンは,trypsinに類似した一次構造と酵素学的性質を有するセリンプロテアーゼであることを詳細に明らかにした。 次に,Cephonodes hylas(鱗翅目;オオスカシバ),Homoeogryllus japonicus(直翅目;スズムシ),Trypoxylus dichotomus(甲虫目;カブトムシ)の未交尾オスから」,運動能を持たないオス貯蔵未成熟精子を見出し,Bombyx mori同様,trypsinにより精子が運動能を獲得することを明らかにした。さらに,上記,供試昆虫の精子活性化因子が特異的に存在するオス生殖腺部位からはイニシャトリンに類似したセリンプロテアーゼ遺伝子が単離された。このことは,多くの昆虫においてもイニシャトリン様のタンパク質が精子活性化に係わっている可能性を示唆するものである。 精子活性化に伴い,アルギニンが特異的に生じるが,その原因は,生殖腺分泌物中に含まれるアルギニンキナーゼによる作用の結果であり,同時に,精子活性化に必要なATPが速やかに供給されていることが明らかとなった。
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