Research Abstract |
黒ボク土が多量の有機炭素を蓄積している要因のひとつに,有機炭素がアルミニウム(Al)-腐植複合体としてきわめて安定な状態で存在していることがあげられる。また,Al腐植複合体の一部は不安定であり,土壌溶液中や交換態のAlイオンと平衡しているとみられ,低pHとAl毒性は土壌微生物活性を抑制する可能性があると考えられた。そこで本研究では,有機炭素含量やAl-腐植複合体含量の異なる土壌試料の土壌呼吸量を調べた。また,土壌pHやAl形態の変化が炭酸ガス放出量に及ぼす影響をみた。東北大学フィールド教育研究センター内の農耕地および森林から32点の黒ボク土A層試料を採取し,実験室でのインキュベーションでの土壌呼吸量を調べ,有機炭素の存在状態との関連をみた。その結果,有機炭素のうち非腐植物質(ピロリン酸ナトリウムで抽出されない)の割合が多いほど土壌呼吸量が多いことが確かめられた。土壌を種々の中和資材(CaCO_3,Ca(OH)_2,NaOH,KOH)で中和後に呼吸量を測定したところ,殆どの土壌で,無処理<NaOH処理≒KOH処理<Ca(OH)_2処理≦CaCO_3処理の順となった。Ca資材処理により水溶性有機物の増加がみられた。これらのことより,中和によるプロトンやAlイオンの微生物活性阻害要因の緩和が作用していることに加え,Caイオンによる腐植の易分解化がおこることも示唆された。 Tohoku University Andosol Databaseから293点のA層のデータを抽出し,有機炭素蓄積に及ぼす,土壌pH,交換性Al,腐植複合体(ピロリン酸塩抽出)AlとFeの影響を統計的に解析した(パス解析)。その結果,有機炭素量に最も影響があるのが腐植複合体Alであり,土壌pHと交換性Alもかなり影響していることが示された。これらの結果は,上の実験結果を裏付けるものである。
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