2010 Fiscal Year Annual Research Report
鉄酸化細菌由来新規有機水銀分解酵素の分子生物学的解析とその利用
Project/Area Number |
20580079
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
杉尾 剛 岡山大学, 大学院・自然科学研究科, 教授 (20033269)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹内 文章 岡山大学, 環境管理センター, 准教授 (90294446)
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Keywords | acidithiobacillus ferrooxidans / mercury reduction / mercury volatilization / mercury resistance / cytochrome c oxidase / mercury reductase / organomercury lyase / iron-oxidizing bacterium |
Research Abstract |
本研究は、無機水銀および有機水銀を強酸性pHで金属水銀に変換できる鉄酸化細菌Acidithiobacillus ferrooxidans MON-1株の特徴ある微生物機能を分子生物学的に解析し、得られた知見を水銀汚染土壌の「バイオレメディエーション」へ応用していくことを目的にしている。地球の環境浄化及び保全は、21世紀における人類の最も重要な課題の一つである。環境ホルモンや重金属などの化学物質は、生物の適正な機能の維持と生命の存続に重大な影響を及ぼす.水銀による水俣病やカドミュウムによるイタイイタイ病の発症は世界に重金属公害の恐ろしさを強く印象付けた。重金属のなかでも特に水銀は魚介類などに蓄積し易いため人々の健康に重大な影響を及ぼす。火力発電所や金の採掘現場、化学工場や廃棄物など水銀の汚染源は多岐に渡っており、しかも水銀化合物は気化し易く大気などを通じて地球規模で移動するため、世界規模での水銀汚染問題の解決が急務とされている。A. ferrooxidansは現在、チリ共和国、オーストラリア、南アフリカ共和国などで大型プラントが建設され銅及び金などのバイオリーチングに実際に利用されている絶対化学合成独立栄養細菌である。高価な有機栄養化合物を必要とせず空気中の炭酸ガスを唯一の炭素源にし、2価鉄及び還元型硫黄化合物をエネルギー源にすることからバイオレメディエーションには最適の菌と考えられている。従来から知られている水銀還元菌は中性pHでのみ増殖可能な化学合成従属栄養細菌でありバイオレメディエーションに利用する場合に高価な有機栄養を供給する欠点があった。また、多くの重金属は酸性pHにおいて溶解度が高いので酸性に生息するA. ferrooxidansは重金属処理には中性因で増殖する菌より有利と考えられる。この様な鉄酸化細菌のバイオレメディエーションに対する有利な性質を利用して水銀汚染土壌からの水銀の除去処理に本菌を利用することを試みた.前年度までに、2価鉄で増殖した鉄酸化細菌も元素硫黄で増殖した鉄酸化細菌も共に同じレベルの無機及び有機水銀化合物からの水銀気化活性を有していることを示した。また、両者ともに細胞膜に存在するaa3型cytochrome c oxidase (aa3)が水銀気化に関与していることを明らかにした。2価鉄で増殖したMON-1株より純粹に精製したaa3型c
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ytochrome c oxidase (aa3)が、無機水銀のみでなく有機水銀メチルマーキュリークロライド(MMC)対しても分解活性を持っていることを明らかにした。精製したaa3から調製した抗体は両水銀化合物からの金属水銀の気化を完全に阻害するという結果を得ているが、この結果も(aa3)が水銀を気化できることを支持している。平成22年度は、MON-1株のaa3に存在する3種類のsubunits(α-、β-、及びγ-subunits)のなかでどのsubunitsが水銀の気化に関与しているかどうかを検討した。2価鉄をエネルギー源にして電気培養法で培養して得たMON-1株細胞よりaa3を電気泳動的に単一に精製した。気化してくる金属水銀は過マンガン酸カリュウムにトラップさせた後、還元気化原子吸光法を用いて測定した。精製aa3を0.1%メルカブトエタノールを含む5% SDSでsubunitsに解離させた後、セファデックスG-100カラムグラフィーを用いて各subunitsの単離を試みた。G-100カラムクロマトグラフィーにより2つのタンパク質溶出ピーク(A及びB)が観察された。G-100カラムクロマトグラフィーを2回行うことによってA及びBピークを単離した。Aピークはcytochrome c oxidase活性を持ち、SDS-PAGEの結果2本のタンパク質バンド(59 KDa,24kDa)を示し、分子量よりα-及びβ-subunitsが存在することが明らかになった。一方、BピークはSDS-PAGEの結果1本のタンパク質バンド(59 KDa)を示し、分子量よりα-subunitsのみを含んでいることが明らかになった。Bピークはcytochrome c oxidase活性を示さなかった。α-及びβ-subunitsを含むAピークのcytochrome c oxidase活性は解離前の未変成aa3より約10倍高い活性を示したことから、aa3の触媒部位はα-及びβ-subunitsにありγ-subunitはcytochrome c oxidase活性の制御を行っていることが推定された。高度に水銀耐性であるMON-1株は他のA. ferrooxidansに比較してcytochrome c oxidaseが水銀に耐性であることを示している。A. ferrooxidans ATCC 23270株由来精製aa3の活性は0.05 mM SDS存在下で完全に阻害される。一方、MON-1株由来精製aa3は0.05 mM SDS存在下で約80%の活性を保持していた。α-及びβ-subunitsを含むAピークのcytochrome c oxidase活性が0.5 mM SDS存在下においても100%活性を保持していることが明らかになった。水銀耐性MON-1のaa3は水銀に耐性であるばかりでなく界面活性剤であるSDSに対しても耐性であるということができる。MON-1株のcytochrome c oxidase活性は0.2 mMのカドミュウム(Cd2+)、亜鉛(Zn2+)、ニッケル(Ni2+)などによってほとんど影響を受けなかったが、Cu2+の添加量に比例して活性化され0.2 mM存在下において約3倍活性化された。塩化水銀及びMMCを基質にし、還元型mammalian cytochrome cを電子供与体にして水銀の気化活性を測定した。G-100カラムクロマトグラフィー後のAピーク及びBピークのみではわずかな金属水銀気化活性しか示さなかったが、AピークにBピークを加えるとBピークの濃度に比例して顕著な金属水銀の気化活性の増大が観察された。Aピークによる無機水銀及び有機水銀MMCからの金属水銀の気化活性は0.1 mMのCu2+の添加によっても約2倍活性化された。これらの緒果も、α-及びβ-subunitsがcytochrome c oxidase活性とともに水銀気化活性、有機水銀MMC中の炭素-水銀結合を切断するmercury reductase様活性を併せ持っていることを示している。今回の研究で得られた結果を以下にまとめる。高度水銀耐性鉄酸化細菌A. ferrooxidanas MON-1は水銀が存在する特殊環境下では鉄酸化酵素系の末端酸化酵素として通常機能しているcytocrhome c oxidaseを用いて水銀を還元できる。しかしMON-1株のcytochrome c oxidaseは水銀感受性鉄酸化細菌のcytochrome c oxidaseとは異なり水銀耐性、SDS耐性という特殊な性質を持っている。cytochrome c oxidase活性及び水銀気化活性発現の最小単位はaa3中のα-、β-subunitsであり、活性発現にはCu2+の存在が必須であった。 Less
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Volatilization of metal mercury from organomercurials by highly mercury-resistant Acidithiobacillus ferrooxidans MON-1.2010
Author(s)
Sugio, T., Komoda, T., Okazaki, Y., Takeda, Y., Nakamura, S., Takeuchi, F.
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Journal Title
Biosci.Biotechnol.Biochem.
Volume: 74
Pages: 1007-1012
Peer Reviewed
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