Research Abstract |
本研究において,昨年度までに母川刷込関連時期(降海時および遡上時)が異なるサケ属魚類2種,シロザケおよびサクラマスの嗅覚器官(嗅房)における細胞動態の解析を行い生活史に伴う嗅細胞の「数的変化」を明らかにし,国際誌に公表できたことから(研究発表雑誌論文1番目),2年目にあたる今年度は,「質的変化」の解析に着手した。母川刷込関連時期,特に降海期に顕著な血中濃度上昇を示し,一般に細胞増殖に強く関与する内分泌因子として甲状腺ホルモンに着目し,その受容体である甲状腺ホルモンレセプター(TR)遺伝子の解析を行った。はじめに,シロザケ嗅房のpoly (A)^+RNAを鋳型とし,他の真骨魚類TRに対する縮重プライマーを用いてRT-PCRを施行した。その結果,約420bpの遺伝子断片が得られ,得られた全クローンの塩基配列がギンザケやタイセイヨウサケのTRβ遺伝子と98%以上の相同性を示し,シロザケのTRβ遺伝子であることが判明した。このことは,脊椎動物の嗅覚器官ではじめてTR遺伝子発現を示したものである。次に,同遺伝子のジゴキシゲニン標識cRNAプローブを作製し,シロザケ嗅房のパラフィン包埋組織切片に対してinsituハイブリダイゼーションを行なった結果,嗅上皮下層上部から中層に局在する,protein gene product 9.5免疫陽性を示す未熟嗅細胞にTRβ遺伝子発現を示すシグナルが観察された。以上の結果より,シロザケ嗅房において未成熟な嗅細胞がTRβ遺伝子を優位に発現していることが明らかとなり,嗅細胞の「質的変化」の解析に使用可能な分子の一つが検出可能となった。
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