Research Abstract |
資源量減少が著しいカワヤツメの幼生のハビタット利用と食性, および各地域集団の遺伝的多様性と集団構造を明らかにする目的で野外調査と室内実験を行い, 以下の成果を得た. 1. 石狩川において, カワヤツメ幼生の小型群(<5cm)および大型群(>5cm)について出現個体数と環境要因(流速, 底質硬度, 底質組成などの10変数)の関係を一般化線形モデルによるモデル選択を行った結果, 小型群は流れが遅く, 底質が柔らかく, シルトから成るハビタットを, 一方, 大型群では底質が柔らかく, 細粒状の底質有機物に富むハビタットを選好することが示された. 2. 本種幼生の食物資源利用を明らかにするため, 河川で採集された個体を用いて安定同位体分析を行った結果, 幼生は藻類と落葉リターを主な餌資源として利用していることが明らかになった. 3. カワヤツメの系群と資源動態を推測する目的で, 日本と周辺地域の集団を対象に, マイクロサテライトDNA分析を行い, 集団構造と遺伝子流動パターンを推定した. その結果, 解析したすべての集団は1つのクラスターに属し, 集団間に明確な遺伝的差異は認められなかった. また, 集団間の遺伝子流動は, 現在の数世代間レベルでは, 海流や宿主の分散に影響を受けていることが示唆された. 4, 石狩川におけるカワヤツメ集団の遺伝的多様性の変動を推定するために, 1993年と2007年に採集された集団を解析した結果, この年級群間には有意な遺伝的差異は認められなかった. 一方, 2007年級群ではヘテロ接合度の観察値が1993年級群と比較して低下を示した. このことは, 2007年級群はホモ過剰あるいはヘテロ欠乏であり, 自由交配が行われていない状況にあることを示唆する.
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