Research Abstract |
土地の売買で売主が一度買主に売ったものを取り戻す行為は買戻しと呼ばれ,民法に規定がある.民法制定当時,土地を買い戻す行為は古くから行われ,金融を促す利点もあって民法に規定したとい.われたが,現在では,当時の買戻し慣行の実態や,それが成立期の地主制にいかなる影響を与えたかについて,全く分かっていない。本研究は平成20〜22年度の3年問で,買戻し慣行の全体像(成立から衰退までの実態とその原因1,慣行と成立期の地主制との関係を解明ずる.20年度は,i慣行はいかなる特徴をもっていたか,ii慣行はいかなる条件の下に成立したかを解明しようとした. i調査を行った全県(岩手,秋田,宮城,福島,新潟,和歌山,徳島)で買戻し契約の存在が確認できた.事例は東日本に多く,西日本では少ないご契約は,土地売買証文に付帯する「買戻約定証」「売戻約定証」ないし「返リ証」などの証文によって行われ,早いものでは明治8年ごろ出現し,20年代に頂点に達し,30年代に減少する.大地主も買戻しに応じていた.期限は区々であるが,「何時ナリトモ」買い戻せるという無年季有合約定がみられ,期限が延長される場合も多かった.約定は第三者(土地の転得者)にも対抗力があった,また,買戻しを断念する場合,買主が増金を受け取ることがあった.このように,売主には近世質地請戻し慣行で質入主が有していたような権利があった. ii買戻し契約を行った何人かの地主の事例から,買戻しは,近世に行われていた取戻しの可能な土地売買一質入れあるいは本銭返・年季売-が,明治初年の私的土地所有権の法認(地租改正法)と土地揖保法の整備(地所質入書入規則,流地禁止令)を受けて,変化・成立した担保(請戻しのできる売買)慣行であると考えられた.
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