2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20580230
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
大栗 行昭 宇都宮大学, 農学部, 教授 (50160461)
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Keywords | 農業史 |
Research Abstract |
土地の売買で売主が買主に売ったものを取り戻す行為は,民法に買戻として規定されている.土地を買い戻す行為は古くから行われ,金融を促す利点もあって民法に規定されたというが,買戻慣行の実態は全く分かっていなかった.本研究は平成20~22年度の3年間で,買戻慣行の全体像,慣行と成立期の地主制との関係(i慣行はいかなる地域的・時代的広がりと特徴をもっていたか,ii慣行はいかなる条件の下に成立し衰退したか,iii慣行は地主制の成立にいかなる影響を及ぼしたか)を解明するものであった.平成20年度の研究により,i買戻しは全国で行われ,明治の土地売買解禁によって成立の基礎を得て10年代後半の松方デフレ期に頂点に達し,30年代に減少したことが分かった. 22年度は21年度の研究成果を深めた結果,ii買戻しは近世農民の土地所持観念(質入や売買から何年たっても元金を返せば土地は取り戻せるという観念)を残す売主と,買い入れた以上,排他的な私的所有権を実現したい買主との間で成立した売渡担保(所有権を移転することで金銭を借入する.同じ物的担保である質入・書入より高額の借入が得られ,質入・書入が流地になった後でもこの担保は設定可能)であるため,農家経済が破綻に直面した松方デフレ期に最も成立の可能性を高め,デフレの終息とともにこれを低下させたことが分かった.22年度の研究ではさらに,iii買戻しは買主(地主)にとって買入地の所有権帰属を曖昧にし,買入に伴う小作条件の交渉を煩雑にし,徳義・救済として買戻しの実行を強制するなどの作用があるため,明治20年代以降,地主はこの慣行を忌避するようになることが分かり,買戻しの衰退過程は地域の地主制の成立過程に重なると考えられた.
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