Research Abstract |
本年度は,光駆動型クロライドポンプの様々な変異体の輸送活性を精度良く見積もり,輸送に関わるアミノ酸残基を同定した.用いた実験系は,クロライドポンプをアフリカツメガエル卵母細胞膜に発現させ,電気生理学的手法によりCl^-輸送活性を見積もる実験系である.1分子当たりの「輸送能力」と1秒間に輸送するイオン輸送能力を見積もることが可能である. 先ず,レチナール近傍のアミノ酸変異体に焦点を当て,輸送活性を測定した.輸送活性が劇的に変化した変異体は,Arg123,Ser130,Asp252残基に関するものであった.これら変異体を詳細に検討したところ,スイッチ機構が機能不全を起こしているものを見いだした.その一つの変異体(Ser130変異体)は,このスイッチ機構の壊れた様相を示した.光を照射時,負の電位をかけると負の電流が流れ,正の電位をかけると正の電流が流れる,光感受性Cl^-チャンネルとなった.ポンプからチャンネルへの変換することが出来たことより,Ser130がイオンを輸送する上で,逆流を防ぐ分子弁として機能していると推察された.もう一つの変異体は,レチナールが光エネルギーを吸収後,初期段階で停止する変異体(D252N)である.Asp252は,レチナールが吸収した光エネルギーをタンパク分子内の機能ドメインへと伝える重要な役目をしているアミノ酸残基であることが推察された.これら変異体は,Cl^-の駆動を考える上で貴重な手がかりとなるものであった.今後,これら変異体を閃光光分解法により詳細に検討し,イオン輸送分子機構の解明を行ってゆく. 一方では,詳細な解析を可能とする,クロライドポンプの結晶化を試みている.本年度は,粗結晶を得るまで至っているが,結晶解析を行うには結晶化法の改良が必要である.更なる改良は次年度へと繰り越すこととなった.
|