Research Abstract |
種々の呼吸器疾患時に破壊された肺組織を再生する治療法は未だ確立されていない.一方,発生期の肺胞では,間葉系の細胞から肺胞II型細胞へと分化し,これが増殖した後に肺胞壁の大部分を覆うI型細胞へと分化する.我々はこれまでにI型細胞に特異的に発現するaquaporin-5遺伝子のプロモーター解析を通じて,肺胞上皮細胞の分化調節に対する転写因子Sp1およびSp3の重要性を示唆してきた.Sp3はaquaporin-5の発現を抑制するが,分化に伴ってその発現自体は減少する.そこで本年度は,このSp3のプロモーター解析を行ったが,その発現はタンパク質リン酸化酵素ERKによって負に調節されることを見出した.このERKによる発現減少は末梢気道の上皮細胞の前駆細胞である基底細胞に多く発現するAQP3の発現調節にも認められた.Aquaporin-5と異なり,aquaporin-3の発現はSp1あるいはSp3の影響を受けず,ERKの下流でCEBPのリン酸化が生じ,その結果aquaporin-5の基本転写活性に関わるE2F1転写因子が抑制されることが重要であった.我々および他の研究者らによって,aquaporin-3は肺の水代謝のみならず,細胞増殖や遊走を調節する作用を持つことが分かっている.従って,炎症などによって一部傷害された末梢肺では,種々のサイトカイン刺激によってERKの活性化が生じ,CEBPおよびE2F1依存的にaquaporin-3の発現を抑制して,基底細胞の増殖から上皮細胞への分化へと表現型を切り替える可能性が考えられた.先に明らかにした肺胞上皮細胞でのIL-6およびSTAT3を介した転写調節に加え,末梢気道でのERK,CEBPおよびE2F1依存的な機序も肺上皮細胞の分化および修復機構として働く可能性が考えられる.
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