Research Abstract |
癌による死亡の約90%は,腫瘍細胞の局所浸潤(周辺組織への浸潤)と遠隔転移によるものであると考えられている.近年,腫瘍細胞の浸潤・転移に関与する蛋白として,上皮間葉転移に関連する転写因子Snailと,細胞の移動に関連するプロテアーゼADAM10,およびADAM17が見いだされた.これらの蛋白質は,その機能を発現するために亜鉛を必要とする亜鉛蛋白質である. 本研究では,我々が開発した亜鉛特異的な配位子に,蛋白質を特異的に認識する側鎖を結合し,これらの蛋白質の機能発現に必須である亜鉛と特異的に相互作用する亜鉛キレーターを設計・合成し,それにより癌の浸潤・転移を阻害する新規阻害剤の創製を目的とした.今年度は,側鎖アミノ基に対する蛋白認識部位の導入を検討した.その結果,一つの側鎖アミノ基に保護基を導入した化合物に対して,広くMMPを阻害することが知られているマリマスタットの蛋白認識部位を縮合させ,その後,アミノ基の脱保護,チオール基のNps保護などを行い,チオールの保護が異なる2種類の化合物を合成することができた.また,亜鉛キレート部位を構築する方法として,ピリジン環の2位と6位に一つずつホルミル基を導入する方法を新たに開発した.すなわち,2位にホルミル基を導入した後アセタール保護し,次いで6位にホルミル基を導入する.この方法を用いることで2位と6位に異なる側鎖を簡便に導入することが可能となった.今後は,この方法を利用して多様な蛋白認識部位を持つ化合物を合成していく.
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