2010 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内小胞輸送系分子タキシリンの腫瘍形成における発現と機能に関する解析
Project/Area Number |
20590314
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
伊藤 雅彦 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (70270486)
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Keywords | 癌 / 転移 / 細胞運動 / 細胞増殖 / 小胞輸送 |
Research Abstract |
前年度までに、細胞内小胞輸送系分子タキシリンが正常乳腺細胞に比較して転移性乳癌細胞株において発現が上昇していること、さらにはヒト癌組織においても発現の亢進が認められることを見出した。この発現変化が機能的にどのような意義を持つのか解析することを目的として、タキシリン特異的shRNAベクターを転移性乳癌細胞株BT-549細胞へ導入し、恒常的にタキシリン発現を抑制した転移性癌細胞(タキシリンKD/BT-549)を樹立した。Boyden chamberを用いてBT-549細胞とタキシリンKD/BT-549細胞の運動能を比較したところ、タキシリンの発現が抑制されると転移性癌細胞の特徴である運動能亢進が抑制され、また細胞増殖能の低下ならびに抗癌剤の一つカンプトテシンに対する感受性が上がり細胞死を起こしやすくなる傾向を示した。一方、非転移性の乳癌細胞MCF-7についてもタキシリンの発現を抑制した細胞株を作製し(タキシリンKD/MCF-7)同様の解析を行った。その結果、タキシリンKD/MCF-7はコントロールMCF-7細胞と比較して運動能、細胞増殖能、細胞死への感受性に有意な変化を示さなかった。また、タキシリンをヒト正常乳腺細胞MCF-12Aに過剰発現させた場合も、運動能、細胞増殖能、細胞死への感受性に変化を生じなかった。これらの結果は、タキシリンの発現上昇そのものが正常細胞から癌細胞への形質転換に機能的に働きうるものではないこと、さらには、癌のタイプによってタキシリンの表現系への関与の有無が異なることを示唆している。今後、より詳細な分子レベルの解析を行うことによって、癌細胞においてタキシリンが関わる経路を明らかにすることが可能になれば、特定のタイプの癌の診断およびタイプに適合した治療戦略に対して貢献しうる可能性があるのではないかと考える。
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