Research Abstract |
がん幹細胞は,自己複製能,分化したがん細胞を供給する能力,並びに移植実験において腫瘍発症能を有するがん細胞であると定義されている.がん幹細胞は,がん細胞の増殖・浸潤・転移における細胞起源になると考えられており,がん治療法を開発する上で重要な標的細胞になる可能性を有している.これまでにがん幹細胞は,免疫不全マウスへの異種移植実験により,ヒト急性骨髄性白血病,乳がん,脳腫瘍,並びに結腸がんなどのヒトがんでその存在が報告されている.しかし,最近,高度免疫不全を呈するNOG(NOD/SCID/Il2rg^<-/->)マウスを用いた悪性黒色腫患者細胞の移植実験により,実際の造腫瘍能を有するがん細胞の存在頻度は高く,特定のがん幹細胞は存在しないのではないかとする報告もなされている.従って,今日,がん幹細胞の存在の有無,並びにその生物学的特性は明らかではない.我々は本研究において急性骨髄性白血病,及び慢性骨髄性白血病マウスモデルを用い,未分化造血細胞の細胞表面マーカーを用いた解析により白血病幹細胞(leukemia-initiating cells)としての性質を有する細胞の特定に成功した.一方,フォークヘッド転写因子Foxoは正常造血幹細胞の維持に必須な役割を担う転写因子である.しかし,これまでに白血病幹細胞の維持におけるFoxoの役割は明らかではない.そこで上述のマウスシステムを用いて,白血病幹細胞の自己複製能の維持におけるFoxoの役割を解析した.野生型マウス,並びにFoxo3aノックアウトマウス由来の急性骨髄性白血病,及び慢性骨髄性白血病モデルから純化した白血病幹細胞の自己複製能を解析した結果,Foxo3aは急性骨髄性白血病の白血病幹細胞の抑制に,反対に骨髄性白血病の白血病幹細胞では生存維持に関わっていることが明らかとなった.従って,Foxoは白血病幹細胞の自己複製能の制御機構に重要な役割を担っており,白血病幹細胞は白血病の発生母細胞や原因遺伝子に依存して異なる自己複製制御機構を有していると考えられる.
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