Research Abstract |
今回の研究では,Barrett食道におけるfatty acid synthase(FASn)発現と逆流胆汁の関連をみる内視鏡的疫学調査と,Barrett腺癌cell lineにおけるFASnの発現意義,Barrett食道生検材料のorgan cultureによる分子生物学的検討を3つの柱として進めていく計画である。平成20年度にはBarrett食道におけるFASnの発現の臨床的意義を検討するため,内視鏡的にBarrett食道を有する症例のBarrett粘膜を生検し,免疫染色及びRT-PCRにてFASnの発現の有無をチェック,種々の臨床的及び病理組織学的因子との関連を多変量解析した。その結果,FASnの発現は逆流性食道炎を有すること,腸型ムチン形質及びCdx2発現,細胞増殖亢進,apoptosis抑制と相関し,その発現がBarrett食道の病態生理・発癌に深く関与する可能性を示すことが判明した。一方で,Barrett食道の病態は胃酸のみならず,逆流胆汁によっても規定されると報告されるが,その詳細については明らかにされていない。胃ではFASnの発現が胆汁逆流と関連する腸上皮化生に強く認められることから,Barrett食道においても,胆汁とFASnとの関与が示唆される。そこで,内視鏡的Barrett食道及び逆流性食道炎の有無と胃内逆流胆汁の胆汁酸組成との関連を検討した。その結果,疎水性の胆汁逆流は逆流性食道炎による食道粘膜の障害に関与し,バレット食道発生において初段階で影響を与える可能性が示唆された。また,バレット食道の特殊円柱上皮化は細胞障害性を示す特定の逆流胆汁により誘発され,これらの胆汁酸はバレット食道の成熟に関与する可能性が示唆された。さらに,ウルソデオキシコール酸投与は逆流胆汁組成を変化させ,バレット食道の特殊円柱上皮化生を抑制する可能性を認めている。今後,これらの事象をBarrett粘膜のorgan cultureにて検証し,さらに,FASnの発現のBarrett食道病態への影響を詳細に検討する予定である。
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