Research Abstract |
アルツハイマー病(Alzheimer's disease ; AD)患者の剖検水晶体におけるアミロイドβ蛋白(Aβ)の蓄積が報告された[Goldsteonら,Lancet 2003].もし認知症の顕在化以前に水晶体にAβが蓄積するならば,白内障手術の際に回収される水晶体中のAβを定量する事で,ADの早期診断ができる可能性がある.しかし,白内障手術検体を含め,水晶体中のAβの定量法は未確立である.本研究では非認知症患者における白内障水晶体中のAβの抽出方法およびELISAによる定量化を検討した.通常の白内障手術時に回収し,研究目的使用に同意が得られた水晶体試料(N=86)より,Aβを溶解度の異なる各種溶液(TBS,1%TritonX-100,ギ酸)を用いて連続的に抽出し,ELISAにてAβ量を測定した.次にELISAで検出されたAβの存在を確定するためにウエスタンブロッティング(WB)を行った.連続抽出した上清中のうち,ギ酸分画でAβを検出した.血漿や脳脊髄液同様,個人差が大きかったが,タンパク重量あたりのAβx-42は平均7.13±1.96pg/mg(Mean±SEM)であった,Aβx-40は感度以下であった.性別,年齢,白内障LOCS III分類別の分析では,Aβx-42は白内障グレードの上昇に伴い有意に増加し,年齢の上昇に伴って増加する傾向が示唆された.WBの結果では,Aβx-42の存在が確認されたが,抗体の反応性の違いから,水晶体中Aβでは構造変化が生じている可能性が示唆された.認知症を伴わない白内障患者において,水晶体中にAβx-42が少量ながら蓄積し,白内障の増悪に伴って増加している事が確認された.今後,軽度認知機能障害を含めた様々な白内障患者の認知機能との定量比較と,白内障水晶体におけるAβx-42の翻訳後修飾等の同定を行い,水晶体Aβに適合した測定系の開発を行う事で,ADの早期診断につながる可能性が見出された.
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