2010 Fiscal Year Annual Research Report
脳インスリン抵抗性による認知障害の防止に向けたリピッドホスファターゼの意義の解明
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20591053
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
笹岡 利安 富山大学, 大学院・医学薬学研究部(薬学), 教授 (00272906)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
恒枝 宏史 富山大学, 大学院・医学薬学研究部, 准教授 (20332661)
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Keywords | エネルギー・糖代謝異常 / インスリン作用 / 認知障害 / ボスファターゼ / SHIP2 / PI3-キナーゼ / PTEN / 神経変性 |
Research Abstract |
[目的] 2型糖尿病がアルツハイマー型認知障害のリスクを増大させることが近年報告されており、その機序に脳インスリン抵抗性が関与することが示唆されているが、精細は不明な点が多い。リピッドホスファターゼSHIP2は、インスリン標的組織においてインスリンシグナルを負に調節する因子である。2型糖尿病モデルマウスdb/dbの脳でSHIP2の発現増加を認めたことから、本研究では、脳神経系のSHIP2が記憶・学習や認知機能に及ぼす影響とその阻害効果を検討した。 [方法] SHIP2過剰発現マウス(SHIP2-Tg)の記憶・学習行動をモリス水迷路試験により検討した。また、db/dbマウスの海馬スライスを作製し、CA1領域におけるシナプス伝達の長期増強(LTP)に対するSHIP2阻害剤AS1949490の影響を電気生理学的に検討した。さらに、SHIP2阻害剤の脳室内投与がdb/dbマウスの空間記憶行動に及ぼす影響を検討した。また、培養小脳顆粒細胞および大脳皮質細胞をSHIP2阻害剤で処置し、Aktのリン酸化をウエスタンブロット法により、脳由来神経栄養因子BDNFのmRNA発現量をqPCR法により検討した。 [結果] SHIP2-Tgはモリス水迷路試験において記憶・学習能の異常を呈した。脳内でSHIP2の発現増加を認めたdb/dbマウスでは、海馬でのLTPの著明な障害を認めたが、SHIP2阻害剤の処置により回復した。さらに、db/dbマウスでの空間記憶行動の障害もSHIP2阻害剤の脳室内投与により改善した。SHIP2阻害剤の効果発現機序として、培養小脳顆粒細胞でのAktのリン酸化を認めた。さらに、大脳皮質細胞におけるBDNF mRNAの発現が、SHIP2阻害剤の投与により顕著に増加した。 [結論] 脳神経細胞におけるSHIP2の過剰はインスリンシグナルを障害し、認知機能障害を惹起することが示された。また、2型糖尿病により引き起こされるシナプス可塑性および記憶・学習の障害はSHIP2阻害剤により改善した。以上より、糖尿病に伴う認知機能障害の改善に向けた新たな治療戦略として、SHIP2の阻害が効果的なことが示唆された。
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