Research Abstract |
本研究は,統合失調症モデル動物を作製し,モデルに神経細胞保護・新生促進薬と神経幹細胞移植の両方を処置した際の,脳諸領域の神経回路網の変化と,モデルの認知・行動異常の変化を解析し,統合失調症障害の(社会的)認知障害に対する新たな治療法としての薬物・細胞combined療法の可能性を検討することを目的としている。今年度は,胎生期にpoly I:C(ウイルス感染をmimicさせる薬剤)を処置する方法による統合失調症モデル動物を作成し,(1)コントロール群,および作成した病態モデル群の一部に(蛍光)標識神経幹細胞(胎児脳由来)を経静脈的に移植した。細胞移植による行動障害の改善効果について,新奇探索性認知・記憶評価装置を用いた認知・記憶機能,および社会的コミュニケーションの機能等についての行動薬理学的解析を実施した。また,(2)移植細胞の脳移行,既存脳内神経ネットワークへの組み込みについて,社会的認知との強い関わりが指摘されている領域(前部帯状回,扁桃体,海馬)を含む脳諸領域の組織切片(移植3~6ヶ月後)を用いて,特にGABA系ニューロン特異的抗体を用いた免疫化学的解析を実施した。Poly I:C処置群では,新奇物体探索試験における記憶・認知機能,社会相互作用試験における社会コミュニケーションの各機能に異常が認められた。これに対し,それぞれのモデル動物に神経幹細胞を移植した群では,その異常が正常対象群に近いレベルへ改善されることが分かった。また,モデルラットに移植した標識神経幹細胞は,1ヶ月~6ヶ月以上の期間,前部帯状回,海馬,扁桃体を含む脳の諸領域に分布,生存し,移植2~3ヶ月の脳内では,海馬,および扁桃体でGAD陽性の細胞(GABAergic neuron)に分化・成熟していることを観察した。加えて,向精神薬のオランザピンを併用処置することで,移植細胞がより高率で脳に移行,生存する可能性が示唆された。
|