Research Abstract |
本研究は,統合失調症モデル動物を作製し,モデルに神経細胞保護・新生促進薬と神経幹細胞移植の両方を処置した際の,脳諸領域の神経回路網の変化と,モデルの認知・行動異常の変化を解析し,統合失調症障害の(社会的)認知障害に対する新たな治療法としての薬物・細胞combined療法の可能性を検討することを目的としている。これまでに,胎生期にpoly I:Cを処置した統合失調症モデル動物の,記憶・認知機能,社会コミュニケーション機能の異常が,神経幹細胞の系静脈的移植によって,正常対象群に近いレベルへ改善されること,また,移植した神経幹細胞は,海馬や,脈絡層・側脳室経由で脳の種々の領域に移行し,尾状核でACh,扁桃体でGABA系のinterneuronに分化している可能性を示しした。今年度は,移植した神経幹細胞が,既存の脳内神経ネットワークに対してどういった作用を示すのかについて,in vitroでの解析を実施し,外来から加えた神経幹細胞が,非接触条件であっても既存の神経細胞の生存を増強するとともに神経幹細胞の神経分化を強力に促進することを明らかとした。また,外来神経幹細胞の上述した効果に,神経栄養因子の放出を介したhost側のERK,Akt系細胞内シグナル伝達系の増強作用が関係することを示した。また,これまでに,経静脈的に移植した神経幹細胞は,向精神薬のオランザピンを併用処置で高率で脳に移行,生存する可能性を示しているが,今年度は末梢から投与した標識神経栄養因子(BDNF-FITC)が,海馬の歯状回の細胞に取り込まれていることを明らかとし,BDNFが移植細胞の生存・機能的分化を促進させる併用薬物としての有効である可能性を示した。
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