Research Abstract |
機序の解明:前年に引き続いて,ラット小腸の蠕動運動を電気生理学的に解析する手技の確立に向け,打開策を模索したが,期間内に糸口を見出すことが出来なかった.創傷治癒に促進には血小板が大きく関与していることから,副次的に,血小板と消化管吻合の創傷治癒の関係についても研究項目に含める方針とし,以下のごとく検討した,Platelet-Rich Plasma(PRP)の作成:生後6週間SD雄ラットより採血(10%ACD-A液を混合)し,2回の遠心分離にてPRPを調整し,Platelet-poor plasma(PPP)の添加により高濃度(5×10^6/mm3:5倍濃度),低濃度(2×10^6/mm3:2倍濃度)のPRPを作成した.Bovine thrombinおよびCaCl2を混ぜ合わせゲル化させた.PRP濃度別増殖因子の定量:PDGF-BB,TGF-B1を測定した.消化管吻合部の創傷治癒の検討:ラットの上部空腸を切離・吻合した.吻合部へ低濃度PRP,高濃度PRP(0.21ml)を塗布した(それぞれL-PRP群,H-PRP群).これに吻合部にPPPを塗布したPPP群とControl群を加えて計4群とした(各群n=12).完全静脈栄養(ビタミン添加高カロリー輸液製剤,151kcal/kg,9mL/kg/h)にて5日間飼育した後,Anastomotic Bursting Pressure (ABP)および吻合部Hydroxyproline含有量(HYP)を測定した.結果:PDGF-BB,TGF-B1濃度はPRP濃度依存性に増加した.L-PRP群のABP/HYPはともに他の群に比して有意に高く,一方,H-PRP群のABP/HYPは有意に低値を呈した.すなわち,PRPは消化管吻合部の創傷治癒促進効果を有するが,その効果はbimodal effectであり,低濃度は促進し,高濃度では抑制することを初めて明らかにした、この研究成果は,Journal of Surgical Researchにacceptされた. 臨床応用:第65回日本消化器外科学会総会ランチョンセミナー招聘講演において,本研究から得られた基礎と臨床の成果に基づいて,上部消化管吻合術後の慣習的な絶飲食期間の撤廃を提言し,早期経口摂取という新しいclinical practiceを術後のクリニカルパスに組み込むことにより全身的な回復が促進されることを論説した.
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