Research Abstract |
大脳皮質一次味覚野は島皮質に存在し,味覚嫌悪学習などの高次味覚情報処理に重要な役割を果たしている。これまでに,GABAによる抑制性シナプス伝達は,経験依存的な大脳皮質視覚野可塑性の臨界期の開始と停止を調節していることが報告されており,島皮質でも,抑制性シナプス伝達が味覚嫌悪学習の獲得に深く関与していると考えられている。ノルアドレナリンは,βアドレナリン受容体活性化により味覚嫌悪学習の獲得と消去が行われると報告されている。また,アセチルコリンは,ムスカリン性アセチルコリン受容体を介して,味覚嫌悪学習の獲得に重要な役割を果たしているといわれている。このように,島皮質における味覚情報処理機構を明らかにする上で,アドレナリン受容体,アセチルコリン受容体の活性化によるGABA_A受容体を介した抑制性シナプス伝達に対する影響を調べることはきわめて重要であると考えられる。そこでラット島皮質を含む脳スライス標本を用いて,複数の細胞から同時にホールセル記録を行い,以下の結果を得た。(1)βアドレナリン受容体は,抑制性シナプス前細胞のサブタイプと年齢依存的に,シナプス前終末からのGABA放出を調節した。(2)アセチルコリン受容体は,抑制性シナプス前終末からのGABA放出を調節し,その効果はシナプス後細胞の種類によって異なっていた。(3)抑制性シナプス前細胞は,シナプスを形成しているシナプス後細胞のサブタイプを認識している可能性が示された。 以上の結果から,βアドレナリン受容体とアセチルコリン受容体は,抑制性シナプス前終末に作用してGABAの放出を調節するが,これはGABAニューロンのサブタイプおよびシナプス後細胞の種類によって異なる様式を示すことが明らかになった。この調節機構の多様性は,高次味覚情報処理において重要な役割を果たしていると考えられる。
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