Research Abstract |
前年度の研究では,食物認知にはメタ言語との関連性がある可能性があったので,今年度は,脳磁計ではなく,MRIによるトラクトグラフィでもその関係を現すことができるかどうかの解析を行なったが,腹側路の描出の差による変化は,解剖以上の情報は得られなかった。 一方,前年度の研究で用いた課題は,視覚提示による食物と非食物の鑑別であったので,生理的な摂食・嚥下と違う。従って今年度は,嚥下行為について研究を行った。対象は右利き6人を対象とし,液体1mlの嚥下を光刺激による指示嚥下と自発嚥下を各々約50回繰返し試行した。嚥下開始時間はオトガイ下の顎二腹筋の表面筋電図の立ち上がりとした。解析は嚥下開始3.5秒前から,開始後0.5秒までの事象関連同期・脱同期について解析した。結果はθ領域において,指示嚥下が自発嚥下と比較して右側の中前頭回や下前頭回付近の脱同期が,嚥下開始前1秒から開始まで優位であった。また,指示嚥下と自発嚥下共に優位であった領域は,頭頂葉で嚥下開始前0.5秒から開始まであった。一方で,前年度の研究で示した食物認知に関わっていると考えられているβ帯域の左側縁上回付近の脱同期は,この研究では認められなかった。前年度の研究の結果は,光刺激の影響を観察している可能性を否定できなかったが,今回の研究の結果は,光刺激の影響では無いことを示唆しているといえる。また,今年度の結果は,指示嚥下のみで賦活化する領域は,前頭側頭葉認知症の萎縮する部分と一致することと,同疾患が進行した場合の食事では,患者自身が意識的しなければ嚥下できるのに,嚥下しようとしたら嚥下できない場合ことが多い報告より,同領域が指示を実効する計画を作成するのに関与しているのではないかと思われる。したがって,同部の萎縮をMRIで検討すれば,嚥下訓練(指示)が,無効であるかは,事前に判定できる可能性があると思われる。
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