Research Abstract |
神経細胞を用いた研究から,NT-4は,TrkBのリン酸化ならびにRas,MEK,ERK1/2等のシグナル伝達分子を活性化させることが報告されている。また歯原性上皮細胞においては,NT-4は,TrkBと結合することによりERK1/2経路を活性化し,アメロブラスチンの発現を促進させることが報告されている。また,これまでの研究結果から,糖脂質GM3およびLacCerは,NT-4によって誘導されるアメロブラスチンの発現を増強させることがわかっている(RT-PCR)。今年度新たに,リアルタイムPCRにより量的解析を行なった結果,歯原性上皮細胞において,NT-4により誘導されるアメロブラスチンの発現は,GM3単独で8倍,NT-4との共存により22倍にも促進されることが示された。同じくLacCerは,単独で7倍,NT-4との共存により12倍にもアメロブラスチン発現の促進効果を示した。これらの結果から,糖脂質GM3およびLacCerが,歯原性上皮細胞のエナメル芽細胞への分化を促進させる機能を有していることが考えられた。さらに,グルコシルセラミドの生合成阻害剤D-PDMPによって,NT-4によって誘導されるアメロブラスチンの発現は約60%減少したが,これは,GM3またはLacCerの添加により回復させることができた。既に確認していたD-PDMPによるNT-4刺激に対するERK1/2のリン酸化が抑制は,今回の結果を裏付け,糖脂質がNT-4による歯原性上皮細胞の分化導入において重要な役割を果たしていることを示唆した。さらに,D-PDMPによりNT-4によって抑制されたERK1/2のリン酸化は,外来性にGM3またはLacCerを添加することにより,元のレベルまで回復することを確認した。これらの結果から,糖脂質のなかでもGM3またはLacCerが,NT-4による歯原性上皮細胞の分化作用において非常に重要な役割を果たしていることが示唆された。糖脂質が,細胞膜上にある種々の増殖因子のレセプターに何らかの影響を及ぼす際に,lipid raftの形成が関与していることがこれまでにも報告されているが,外来性にGM3を添加することでlipid raftの形成が増えることを免疫染色によって観察された。
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