Research Abstract |
本研究は、高齢者の日常生活における記憶(主に展望記憶)に視点を当てることで,日常生活について把握している家族や身近な者が使用可能な信頼性・妥当性の高い認知症早期発見のための尺度の開発を目的としている。 そこで,本研究は,主に以下の内容・手順で開始した。平成21年度は,平成20年度に実施したデータを分析することを中心に行った。 A県B市の選挙人名簿抄本より,65歳以上75歳未満の前期高齢者1560人を無作為抽出し,基本属性,「生活記憶チェックリスト(Everyday Memory_Checklist: EMC)(39点)」,主観的健康感(5段階),老研式活動能力指標等を把握した。有効回答率は89.2%(815人)であった。対象者は,男性320人(39.3%),女性495人(60.7%)で,平均年齢は70.0±2.8歳であった。EMC項目の得点分布は,0点から27点の範囲であり,平均点は男性7.9±5.0点,女性7.3±4.4点で性差による違いはみられなかった。しかし,EMC得点と各要因との相関をみたところ,GDS5(r=.21,p<.01)と有意差がみられ,年齢,手段的ADL,社会的役割,知的能動性にも弱い相関が認められた。一方,最終学歴,主観的健康感とは有意差がみられなかった。以上から,地域在住の前期高齢者における日常生活に関する記憶は,年齢と相関があり年齢が高くなるほど主観的な記憶力は低下するという結果であった。さらに,記憶力低下と抑うつとの関連が認められ,初期の認知症やMCIのある者に抑うつの存在が指摘されているがその結果を支持するものであった。しかし,ほぼ平均年齢が同じ先行研究の結果に比べ,本研究の対象者の記憶力は高いという結果であった。以上から,EMCと関連した年齢や抑うつ,さらに本調査の高い得点傾向など,今後さらに新たなデータを収集し詳細に検討していきたいと考えている。
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