2010 Fiscal Year Annual Research Report
救急医療分野における延命治療中止の実態と諸問題に関する研究
Project/Area Number |
20601002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
甲斐 一郎 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (30126023)
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Keywords | 延命治療 / 救急医療 / 人工呼吸器 / 脳死 / 末期医療 / 医療倫理 / 高齢者医療 / 死生学 |
Research Abstract |
課題研究の3ヵ年(平成20年~22年)において中心となったのは、平成20~21年に実施した救急医対象の量的調査である。日本救急医学会会員で、救急科あるいは脳外科に所属する全国の勤務医2,802名に対して実施した無記名自記式質問紙調査の知見を基に、救急分野の終末期医療に関する考察と検討を深めた。この調査のデータから、日本の救急医の意識を把握し、末期患者に対する臨床実践の一端を知ることができた。延命治療の中止について、特に人工呼吸器の中止は刑事事件として扱われた具体的な事例が複数あることから、ほとんどの救急医はあからさまな人工呼吸器の中止は実施していないが、それに相当する実践を行っている医師は少なくなく、昇圧剤やADHなどの薬物投与に関しては、投与量の漸減によって「軟着陸」を実現している様子が明らかになった。また、脳外科医のなかには、患者の死期が迫っているわけではないが、脳に重度の障害が残ることが予測された患者から人工呼吸器を外した経験を有する医師も少なからずみられた。2010年に施行された改正臓器移植法によって、脳死の二重基準(臓器移植のドナー候補の場合に限って脳死は死であり、ドナー候補以外では心臓死が死)は、法律上は消滅したともいえるが、臨床現場では依然として二重基準を維持しているとみられる。それは、この調査で、脳死の二重基準は医療現場で混乱の原因となっているので撤廃せよとの見解よりも、二重基準は脳死の理解が多様な日本の現状に対応するために必要であり、家族ケアのために有用といえるとの見解が多くみられたからである。脳死の二重基準は国際標準と異なり論理不整合であるとして批判されることが多かったが、臨床医のこうした見方は、二重基準の意味を考える上で重要であると考えられる。また、今後の終末期医療研究においては、患者家族とともに医療者の心のケアに関する調査研究も必要であることが示唆された。
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