2010 Fiscal Year Annual Research Report
ワークライフバランスと安心して働ける社会をめざした実証的研究
Project/Area Number |
20604002
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
江川 緑 東京工業大学, 学生支援センター, 准教授 (40251615)
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Keywords | ワーク・ライフ・バランス / 地場産業 / 働き方 / 多様性 / 在宅ワーク / 職場 |
Research Abstract |
本年度の研究目的は、地場産業に従事する人々を主たる対象に、労働の意味づけや労働と生活の関係性に考察を加え、大企業での正規雇用者の子育て支援を理念的中核として展開されることが多い「ワーク・ライフ・バランス(WLB)論」を再考し、安心して働ける社会のあり方を検討することにある。地場産業として名古屋の有松絞染と淡路の瓦産業を取り上げ、フィールドワークを深化させると共に聴き取り調査を実施した。絞染産業では、括り職人に活き活きと働き続ける高齢女性が多かった。在宅での作業が可能で、社会に貢献できる活動拠点が地域にあるという「場の効果」が高齢者の就労継続と生き甲斐に大きく寄与していた。これらの結果は、従来の内職を待遇・保障面で改善し、新たな在宅ワーク制度を確立することで、子育て世代に限らず介護者や高齢者が、地域で安心して就労継続できる可能性を示唆していた。決められた時間に通勤し働くという従来からの企業での働き方そのものの変容が、労働力の確保、人と組織・人と地域の活性化に寄与するものと考えられた。瓦産業では、近年の瓦産業の衰退により、窯元は、工程での手間を増やす、土窯での手作りに挑む、工場を清掃し一般に開放するなど「手間をつくりだす」ことにより、地域住民や窯元同士の関係性を醸成すると共に、家族が労働に関わる機会を維持し、仕事と生活の両面で活力を生み出すことを狙っていた。労働の効率化から生じた時間を生活に割り振るという従来の「WLB論」とは、労働の意味づけや生活との関係性が異なり、新たな労働観の存在を示唆していた。2地域での調査結果とも、ワークとライフは一概に対立する概念ではないこと、地域で働くことのもたらす安心感、働く「場」にとらわれない柔軟で多様な働き方とその制度的支援の重要性を示しており、「WLB論」再考に寄与するものと考えられた。なお、多文化間精神医学会に採択された3演題は、震災のため延期となった。
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Research Products
(3 results)