Research Abstract |
本研究の主な目的は,非線形時系列解析論と複雑ネットワーク論の融合による複雑現象の新しい解析技法の開発である.具体的には,複雑ネットワーク理論に基づく種々の解析手法を非線形力学系のアトラクタに,また,非線形時系列解析論に基づく種々の解析手法を複雑ネットワークにそれぞれ適用し,互いの指標を用いた解析を実現する.当該年度では,複雑ネットワークの解析法を用いたアトラクタの解析において,カオス的力学系のアトラクタを,その時間発展に従って成長するネットワークへと変換する手法を提案した.さらに,これらのネットワークがfit-get-rich性などの現実のネットワークの有する性質を示すことを発見した.また,これらの性質がこれまで捉えることが困難であったカオス力学系の引き延ばし・折り畳みの構造と強く関連して生じることを示した.また,提案手法を心拍や血中酸素濃度などの生体信号へと適用した結果,これらの生体信号においても,fit-get-rich性が現れることを発見した.一方,非線形時系列解析法を用いた複雑ネットワークの解析では,提案手法を用いて複雑ネットワークを時系列へと変換することで,規則的なネットワークが周期的な時系列に,ランダムなネットワークがランダムな時系列に変換されることがこれまでの研究で明らかとなっていた.当該年度においては,この変換法を用いることで,複雑ネットワークの構造的特徴を保ったまま,複雑ネットワークを時系列へと変換可能であることを,巡回行列の理論および摂動理論を用いて証明した.これらの結果より,複雑ネットワークの解析手法を用いたアトラクタの解および非線形時系列の解析手法を用いた複雑ネットワークの解析の理論的裏付けを得ることができた.さらに,提案法を用いた実データの解析を通して,現実の複雑現象の数理構造を明らかにするための種々の知見を得ることができた.
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