Research Abstract |
高強度運動を負荷した際の免疫応答に対する鍼刺激の影響を明らかにするために,-過性高強度(75%VO2maxで1時間の自転車運動)後に鍼刺激を行い,鍼刺激が粘膜免疫能および全身免疫能に及ぼす影響について検討した.対象は若年成人男性12名とし,高強度運動後に鍼刺激を行う群と行わない群の2群に分け,クロスオーバー方式を用いた.鍼刺激は,上肢の合谷および孔最穴,下肢の足三里穴,顔面部の頬車穴を用いて30分間行った.唾液および血液の採取は運動前,運動直後,運動終了1,2,3,4,24時間後に行い,唾液より分泌型免疫グロブリンA(SlgA)分泌速度,血液よりヘルパーT(Th)細胞数,細胞傷害性T(Tc)細胞数,ナチュラルキラー(NK)細胞数および血中カテコールアミン濃度について調べた.また心拍数,血圧および主観的コンディション評価についても調べた.その結果,SlgA分泌速度は高強度運動によって低下し続けるが,鍼刺激によって低下が抑制され,回復も促進された.またTh細胞数およびTc細胞数においても,高強度運動による低下が鍼刺激によって軽減され,回復も促進された.しかし,NK細胞数およびカテコールアミン濃度の変動には,鍼刺激の影響は認められず,心拍数,血圧,主観的コンディション評価の変動にも影響は認められなかった.以上のことから鍼刺激は,高強度運動による免疫機能の低下を抑制し,さらに回復を促進させる可能性が示唆される.スポーツ現場において広く用いられている鍼刺激がコンディションに及ぼす影響について免疫学的指標によって評価できる可能性があり,競技選手の良好なコンディション維持のためのケアプログラムの策定に役立つ可能性が考えられる.また,さらなる課題を通じて鍼刺激と運動が免疫機能に及ぼす影響を検討することは,運動免疫学の発展という学術的意義においても重要な課題である.
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