Research Abstract |
本研究の最終的な目的は,地球温暖化などに伴う地域気候の『変化の兆候』について(東アシアを例 に),科学的視点と感覚的視点を双方向に駆使して,いち早く把握出来る『眼』を涵養するための教育プログラム開発にある。そのために本年度はまず,細かいステップでの季節進行や季節進行の歪みに関連した異常気象の幾つかについて見直しを行なうとともに,ミナミアオカメムシ等の昆虫分布域と気像変化との関連,日本の季節の細かい遷移と唱歌・詩歌や絵画などなどとの対応について吟味し,次に例不する知見を得た。 ●全国的な秋雨期に移行する前の8月終わり〜9月始め頃に九州西部に限定された降水の極大期が季節進行として見られるが,それは,南アジアの夏モンスーンに関連する九州への平均場の南風は辛うじて維持される一方で,大陸側の降温の開始に伴う九州北方の前線が強化されるという,広域の季節遷移の影響が九州北西部へ「地域限定」で顕著に現われたためであることが明らかになった。 ●地球温暖化を先取りした暖かい環境である温室内で繁殖が旺盛になるアブラムシ(野菜の害虫)を防除するために,天敵であるショクガタマバエの有効活用について吟昧した。これは,温暖化の影響をある意味で「視覚化」する素材としても興味深い。 また,既に実施済みの研究授業を新たな視点で分析するとともに,季節サイクルの詳細と季節感を把握する授業開発に関する検討を行った。そして,小5で学習する「春の西から東への天気変化」の気象学的背景(「初等理科内容研究」の1コマ分で),気象・音楽・美術で連携した「季節サイクルと季節感」(「くらしと環境」の2コマ分で)について教育学部生を対象に,また,「梅雨の大雨」,「季節サイクルと季節感」,等について中学生や高校生を対象に各授業を試行し,分析を行った。その結果,大学生対象の授業から,春などに見られる移動性の高低気圧システムの発達の様子を気象図から「視覚的にも」把握することで,大学生が生きた現象として気象・気候系を捉える下地となったことが分かった。また,中学生に対する授業でも,日本の季節サイクルをモンスーンアジアの中で捉える視点を獲得し,夏の酷暑の増加や冬の降雪の減少などを気象生データから把握する経験をするなど,今後へ繋がるインパクトのある提案授業となった。
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