2009 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトゲノムに散在する巨大遺伝子の発現機構:イントロン内スプライシング予想の証明
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20651051
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Research Institution | Fujita Health University |
Principal Investigator |
前田 明 Fujita Health University, 総合医科学研究所, 教授 (50212204)
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Keywords | スプライシング / イントロン / ジストロフィン遺伝子 / 投縄状RNA / RNase R / 潜在的スプライス部位 |
Research Abstract |
当初の本研究計画の目的は、ヒトの重要な遺伝子にしばしば見出される10万塩基を超える巨大なイントロンが、どのような機構で正確にスプライシングされるかという難問に対し、合理的な説明を与える『イントロン内スプライシング仮説』を証明することであった。初年度から2年間で、この仮説を支持する状況的証拠が得られたが、完全な証明は困難であった。ところが、研究を遂行する過程で新しい現象『成熟mRNAの再スプライシング』を発見し、その分子機序が原理的に『イントロン内スプライシング仮説』と同値であることがわかった。 この現象は癌細胞で見いだされ、ある遺伝子のエクソン2とエクソン9の中に存在する潜在的5'と3'スプライス部位が使われ、6つのエクソンとその間の7つのイントロンを含む長い領域間の異常なスプライシングが起きている。通常、潜在的スプライス部位は弱く、強い真のスプライス部位が突然変異によって破壊された場合に限って使われる。本遺伝子において、最も自然に複数の真のスプライス部位が破壊できる可能性は、エクソン2とエクソン9の間の正常スプライシングが事前に起こってしまうことである。この仮説を支持する以下のような結果を得ることができた。(i)この遺伝子のcDNA導入実験により、再びスプライシングが起きないはずのイントロンを含まないmRNAにおいても潜在的5'および3'スプライス部位が使われ、内在性遺伝子由来と同じ異常mRNAができた。(ii)RNase RとRT-PCR法を組み合わせた方法を用い、細胞内在性遺伝子からできた成熟mRNAの再スプライシングに由来するエクソン配列からなる特異的なラリアットRNA産物が検出できた。 成熟mRNAの再スプライシングが起きるという現象は、当初の仮説、すなわちイントロン内の入れ子スプライシングが完了した後、イントロン全域を取り除くスプライシングが起こる事と機構的に同じである。『成熟mRNAの再スプライシング』現象を検証できれば、癌細胞で成熟mRNAの再スプライシングが起きるという事実を明らかにし、それは正常細胞では一旦スプライシングされたmRNAはそれ以上のスプライシングを受けないように抑制する機構が存在するということを示唆する。蛋白質翻訳の鋳型として正確なmRNAを作る品質保障機構を知る上で、未解決の問題-細胞核はスプライシングの終了をどうして知るか?-を提起する。私たちが発見した遺伝子での現象は、その問題解決のためのモデル系になると期待でき、今後は極めて重要な研究に発展するだろう。
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Research Products
(4 results)