2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20652023
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
度会 好一 Hosei University, 国際文化学部, 教授 (00054338)
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Keywords | マラーノ / 植民主義 / 文化的雑種性 |
Research Abstract |
16世紀のポルトガルに隠れユダヤ教徒が大量発生した理由は、マノエル1世がスペインから追放されて逃れてきたユダヤ人を強制的に改宗させながら、内面の信仰を黙認したからである。彼らはリスボン、アントウェルペン、アムステルダム、ロンドンなど、拠点を次第に拡大しながら、アメリカ大陸やアジアの商品を売買する商人として実力を蓄え、ヨーロッパ植民主義の尖兵ともなった。1603年以来、市の寛容政策の故に公然とユダヤ教徒に戻ることのできたアムステルダムでは、植民主義の尖兵、地域社会の経済的発展の貢献者となったユダヤ人が目立つ。この傾向はロンドンのポルトガル系マラーノにも共通する。彼らはキリスト教徒を装った隠れユダヤ教徒として、割礼をせず、祈りの時に脆き、救済を民族全体に関るものでなく個人的なものと見なし、主の祈りを多用するという、文化的雑種でありつつ、ポルトガル人らしさを失わず、ポルトガル語を話し、ポルトガル演劇を愛し、快楽の追求にも情熱的で娼婦の館にも通った。エリザベス朝イングランドに住んだ100人ほどのポルトガル・マラーノは1656年以前は公然とユダヤ教に戻れなかったが、キリスト教会墓地に埋葬されながら密かにユダヤ教を実践していた。その事実が確認できるのは、カリブ海で掌捕されたスペイン人が、ロンドンのマラーノ社会を告発したからある。エリザベス女王の毒殺を図った謀反人として処刑されたロペス博士は、秘密シナゴーグに献金していたポルトガル・マラーノである。彼については、新発見を含めて『カエサルの友、神の敵』(岩波書店近刊)に詳しく書いたので、ここでは割愛する。
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