Research Abstract |
語には多義のものが少なくないが,その語義がどれも等しく現れているとは信じられていない。例えば,動詞・四段活用「立つ」の意味として優勢であるのは,万葉集・古今和歌集では雲・風・月などの自然現象が現れること,枕草子・紫式部日記では人が立ち上がること,大鏡では后・春宮の位に昇ることである。しかも,語の出現頻度はこれまでによく取り上げられてきたものの,語義ごとの頻度はほとんど知られていない。古典文芸に現れる約2万4千語について,語義がどのように現れているかを組織的に調べようとするのが,この研究の目的である。 語義の現れかたの偏りによって作品を特徴づける,といったことも,いずれ可能となるであろう。 本年度は,高頻度の語の処理を行った。ただし,語と語との間,あるいは語義と語義との間で,まとめかた・分けかたを調整する必要があり,来年度の中頻度・低頻度の語の処理とともになお検討を重ねる。語義は,現在,国語辞典などよりも大きくまとめてあって,幾つの語義のものが幾語あるかを見ると,1義18802語,2義4509語,3義415語,4義97語,5義33語,6義13語,7義4語,8義2語,9義1語,10義1語である。 研究開始時に予想しなかった,基本的な問題として承知したことがある。すなわち,国語辞典などで語義を分けるが,実際の事例では,幾つかの語義に亘ると理解されて,どれか一つに決定し難いものが,少なくないのである。そのようなものにも語義一つを適宜割り合てて,頻度を数えなければならず,現実には,数例を合わせ見て頻度を印象的に按分比例させることになっている。この措置は全く不当であるとも思えないので,理論化できれば,この研究で予定している作業は,全数調査でなく,一部を抽出した調査でよいことになる。
|