2009 Fiscal Year Annual Research Report
カンボジア土地法と民法典整備に伴う財産権概念の変化に関する調査
Project/Area Number |
20653002
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
KUONG Teilee Nagoya University, 法政国際教育協力研究センター, 准教授 (80377788)
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Keywords | カンボジア / 土地法 / 比較法 / 財産法 / 民事法学 / 憲法 / 国家所有 / 所有権 |
Research Abstract |
カンボジアの1980年から1993年までの所有権概念(とりわけ土地所有を中心に)についての調査・分析を行うことにより、当時の所有権の法的な位置づけが明らかになってきた。当時の政治と経済の実態に合わせて集団的な経済生産を促進するために、土地が国家の所有に定められても、ほとんどその管理と分配は集団に任せられ、僅か数年後には部分的に「個人所有」の形に変遷した。法律と現実との乖離も段階的に広がり、市場経済を憲法上に定める前に、既に土地は経済生産の集団的な財産から生活や資本収集のための「個人所有」に移っていった。それ故、1993年憲法を採択する際に、土地の私有化や私有財産の保護を導入することは、それまでの乖離を埋める役割を担った。しかも、90年代の政府の経済政策は、「資本投資」と「経済発展」を中心として政治・経済改革を進めたことにより、土地の「所有=資本と財産の創造」という概念を助長した。遂に、とりわけ農村の貧困層や一部の少数民族地域に存在している「所有=生活の維持・確保」という概念が自然的に疎外され、90年代後半から土地紛争が各地に広がってきた。この状況の中で、土地の私的所有を支える2001年土地法が採択され、その6年後に新民法典も制定された。 当該年度に実施した研究は、1981年憲法を制定してから1993年の憲法を採択するまでの土地及び住宅の規制と管理に関する様々な法令の施行や、それぞれの背景にあった法と政治の展開の整理と解明により従来の財産権概念の変化を分析することができた。 この研究結果のもとに、2001年の土地法及び2007年の民法典が果たす役割を、「財産権概念の変化と新たな段階への展開」という文脈で分析することもでき、21世紀になってからのカンボジア法の体制移行に対する新たな理解を導くための重要な観点を提供することが可能である。
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