2010 Fiscal Year Annual Research Report
電子伝達機能をもつ鉄-硫黄タンパク質の電子状態-物性物理からのアプローチ-
Project/Area Number |
20654032
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
遠山 貴巳 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70237056)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福山 秀敏 東京理科大学, 理学部, 教授 (10004441)
|
Keywords | 生体分子 / 鉄・硫黄タンパク質 / 厳密対角化法 |
Research Abstract |
引き続きFe_2S_2クラスターに注目してその電子状態と磁性を検討した。特に、ランチョス法に基づく大規模厳密対角化計算により鉄と硫黄の電荷移動エネルギーをパラメータとしてスピン量子数で区分けされる部分空間における最低固有状態を求めた。形式的にFe^<3+>とFe^<2+>が存在する場合は、Fe間の超交換相互作用と二重交換相互作用の競合により、電荷移動エネルギーの大きなところでS=9/2が安定になり、そこから電荷移動エネルギーを減少させるとS=1/2が基底状態となり、さらに減少させていくとS=7/2が基底状態となる。電荷移動型とモット・ハバード型という区分けで見ると、この系は電荷移動型に属していると見るべきであり、系に非対称性がない場合はS=9/2が基底状態になると期待される。非対称性が含まれるとS=1/2が安定になる。一方、実験からは二核の還元型鉄-硫黄クラスター[Fe2S2]^<1+>では、システインがクラスターに付随しているときはFe^<3+>とFe^<2+>が区別できる局在状態にあり全スピンはS=1/2となる。しかし、システインの一部をセリンに置換すると非局在な混合原子価状態Fe^<2.5+>Fe^<2.5+>が形成され全スピンがS=9/2となる。この振る舞いは、上記の理論結果とは必ずしも整合していない。システインの端にある硫黄とセリンの端にある酸素の違いのためセリン置換により電子分極率が減少する。そのため、系全体の遮蔽効果が減少し、静電的クーロン相互作用に関わるエネルギーが増加することが期待される。その結果可能なシナリオは、もともとセリン置換前はS=1/2が基底状態となるパラメータ領域に物質系は存在しており、置換効果によって電荷移動エネルギーが増大する結果、S=9/2が安定となるというものである。このシナリオを確認するのは容易ではないが、硫黄の内核X線吸収分光が有効な実験手段となることを議論した。
|
Research Products
(2 results)