2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20657006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中野 伸一 Kyoto University, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 竜二 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (30244528)
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Keywords | 微生物ループ / 嫌気環境 / 細菌 / 鞭毛虫 / 纎毛虫 / 有機物生産 / 細菌摂食 / 原始地球 |
Research Abstract |
嫌気環境の微生物ループは、地球上に誕生した最初の食物連鎖と考えられ、その特性解明は食物連鎖の進化の研究において重要である。しかしながら、嫌気環境における微生物ループの研究は未だ限られている。本研究では、好気・嫌気の対照的な環境を有する福井県・水月湖において、嫌気環境における微生物ループの特性を解明し、原始地球に最初に発達した食物連鎖を推測した。水月湖の物理・化学的環境項目の鉛直的構造は、研究期間を通じて安定しており、水深5mから7mにかけて溶存酸素濃度が急激に低下し、水深7mでは硫化水素濃度の顕著な増加が見られ、それ以深では完全な嫌気状態であった。水深5mまでの好気層では、細菌とその摂食者である鞭毛虫が豊富に存在し、繊毛虫は好気環境に典型的な種組成を示した。好気・嫌気境界層は最も細菌が豊富に存在する傾向があり、鞭毛虫は活発な細菌摂食活動を示し、また繊毛虫は大型の細菌食者が優占した。この大型繊毛虫は、通常の固定剤では細胞が破壊され現存量評価が著しく低くなるため、従来の研究ではこれら繊毛虫の生態学的役割を過小評価している可能性がある。嫌気層では、繊毛虫はほとんど生存せず、細菌数はさらに低下し、糸状の巨大細胞の細菌数が増大し、鞭毛虫は好気層とは全く異なる種が観察された。嫌気層における鞭毛虫の細菌摂食活性は比較的高く、鞭毛虫は球菌や樟菌等小型の細菌を摂食しているものと考えられた。嫌気層での生物生産は、好気層の光合成に由来する有機物の沈降により支えられており、細菌生産は高くないが生産された細菌バイオマスを鞭毛虫が消費することにより、両者の現存量は年間を通じて安定に保たれていると思われる。以上により、原始地球に最初に発達した食物連鎖は、嫌気環境に固有の細菌と鞭毛虫により成立したものであり、生産と消費が釣り合ったバランスの取れた系であったと考えられた。
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