2010 Fiscal Year Annual Research Report
精子形成不全に糖脂質が深く関与する:遺伝子改変マウスからの分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
20659253
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Research Institution | Nihon Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
有冨 桂子 日本薬科大学, 薬学部, 准教授 (50142451)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久樹 晴美 帝京大学, 医学部, 助教 (00091059)
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Keywords | 硫酸化糖脂質 / 精子形成 / 不妊症 / ノックアウトマウス / 糖転移酵素 / 血液精巣関門 / ラフト / 細胞間結合 |
Research Abstract |
セミノリピドは哺乳類精巣および脳に特異的に発現している硫酸化糖脂質で、精巣では総糖脂質の90%を占める主要成分である。セミノリピドを欠損する遺伝子ノックアウトマウスでは、精子形成が第一減数分裂を完了する前に停止していることが明らかとなっている。本研究では男性不妊症の原因の9割を占める精子形成不全のメカニズムを解明することを目的として、「セミノリピドが欠損するとなぜ精子形成が停止するのか?」という命題の解明を目指している。細胞膜には膜脂質やシグナル伝達分子が集積して形成されるラフトが存在し、情報伝達に関与することが知られている。セミノリピドはラフトを構成する主要糖脂質の1つであり、構造的にはエーテル型脂質に分類される。近年、リン脂質を含む全てのエーテル型脂質欠損マウスでも、ほぼ同じ時期に精子形成が停止することが報告されている。精細胞の支持細胞であるセルトリ細胞は血液精巣関門(BTB)を形成し、精細胞を隔離して保護するとともに、その分化を制御している。エーテル型脂質欠損マウス精巣では、BTB構成タンパク質の発現が変動していることが見出され、BTBリモデリングにおけるエーテル型脂質の役割が注目されている。BTB構成タンパク質の1つであるclaudin-3について、セミノリピド欠損マウス精巣での発現を解析したところ、エーテル型脂質欠損マウスとは異なる発現変動が見出された。BTBは初期精母細胞の分化に密接に関与しており、セミノリピド欠損マウスにおける精子形成停止はこの時期に一致する。また、BTBタンパク質は細胞膜ラフトと相互作用していることから、セミノリピド欠損がラフト動態を介して精細胞-BTB相互作用の異常をもたらし、精細胞分化停止につながったことが予想される。今後は、BTBの形態や透過性の変化に伴うBTBタンパク質の発現変動を詳細に分析し、精子形成停止に至る分子メカニズムを解明するとともに、関連分子を標的とする男性不妊症の治療法や治療薬開発という、新たな分野への糸口としたい。
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