2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20681025
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Research Institution | Kyoto Human Rights Research Institute |
Principal Investigator |
安里 和晃 (財)世界人権問題研究センター, 研究第4部, 嘱託研究員 (00465957)
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Keywords | 人の国際移動 / 人口構成の変化 / 少子高齢化 / 経済連携協定 / 看護 / 介護 / 資格の相互認証 / ケアの不足 |
Research Abstract |
本年度は執筆、講演など研究成果の公表に力点を置いた。共著の執筆で3本と編著1本、学会・国際会議は招聘のみで6回、その他の国際会議や一般講演、新聞記事などは10回を超える。ただし単著の執筆については大幅に遅れており課題である。これまでの研究を継続発展させるため厚生労働省科研の代表者となり、インドネシア、フィリピン、ベトナム、台湾、韓国の研究者と国際共同研究を開始した。 今年度の知見としてはケアの不足が指摘されている中、医療・ケア人材の国際移動は社会的な地位の下降を通じて、より大きなケアの不足を作り出しているという矛盾を抱えていることが挙げられる。また、これは受け入れ国が高度人材というよりも、担い手不足がより深刻なケア従事者の人材不足があるという、送り出し国の高度人材送り出し政策とのミスマッチが背景にある。つまり、先進諸国における高齢化や女性の労働力化を背景としたケアの不足を医療・ケア人材の国際移動によって解消しようとする動きがあるものの、1.途上国における人材の不均衡分布、2.資格の相互認証の不在による社会的地位の下降(医師から看護師、看護師から看護助手)により、送り出し国ではケアの不足がより顕在化するばかりでなく、受け入れ国においても人材が十分生かされないという状況を生み出している。これはアジア地域という超国家的な単位で考えると、ケアの不足を解消するための国際移動が、より深刻な地域レベルでのケアの不足として新たな問題を発生させていることを示している。 シンガポール、フィリピン、インドネシアの看護師協会は社会的な地位の下降を伴う国際移動に強く反対しているものの、一方でそれぞれの国はこうした人材を送り出し、受け入れを行っている。日本においてもEPAを通じ社会的地位の下降を伴った人材の受け入れが行われているが、目的が人材確保でなく、研修であるならば、送り出し国に対してより深刻な人材不足を生じさせる懸念がある。いずれにせよ、医療人材の国際移動だけでは国際労働市場の需給問題は解決されないことが明確である。
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