Research Abstract |
本研究は,接合部の劣化を考慮した伝統的木造建築の地震時挙動を解析的に明らかにすることを目的としている.伝統的木造建築の構造性能は接合部性能に依存しており,接合部の劣化が建物の構造性能に及ぼす影響を定量的に評価することは極めて重要であるが,接合部種類の多様性に加え劣化そのものの不確定性により,体系的な研究は行われていないのが現状である.本研究は,(1)伝統的木造建築の構造性能評価と地震被害検証,(2)接合部実験,(3)劣化した木材の材料試験,を行うことで,接合部の劣化を考慮した伝統的木造建築の構造性能評価を行うことを目的としている, 最終年度(平成23年度)は昨年度に引き続き,実在の伝統的木造建築数棟を例に実測調査・地震観測,接合部の形状調査を行うと同時に,楔の挙動を考慮した材料試験及び接合部の性能評価,建長寺仏殿・法堂の構造性能評価を行った. 1.建長寺仏殿法堂の接合部形状調査 関東地震の際に被害を受けた国指定重要文化財建造物建長寺仏殿及び同地震で被害を免れた法堂(ともに鎌倉市)を対象に実測調査等を行った.同寺で,申請者らは過去に実測調査を行っているが,解体修理の記録がないため構造耐力の主要な要素である柱貫接合部の形状に関する情報がない.そこで,本年度はファイバースコープおよびX線探査により接合部数か所においてその形状の同定を試みた.その結果,両堂の継手形状がほぼ特定することができた. 2.建長寺仏殿法堂の地震観測 建長寺の仏殿・法堂両堂宇にて地震計(地盤と小屋裏2か所,計4chずつ)を設置し,強震観測を実施している.昨年度は,2011年東北地方太平洋沖地震による加速度波形を測定することに成功した. 3.楔を想定した木材の材料試験と接合部評価 本年度は建長寺で用いられている楔の形状および樹種を考慮し,重ねた木材のめり込み挙動を明らかにするための実験を行った.針葉樹の繊維直交方向に対するめり込み挙動に関する研究は過去から行われているが,楔のように2つの材を積層した場合のめり込みおよび広葉樹材の繊維直交方向めり込みに関する研究は十分行われていない.本実験は建長寺で用いられているケヤキを対象とした実験を行いその結果を日本建築学会大会学術講演梗概集に投稿した.
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