Research Abstract |
車いす駆動に伴う最も深刻な問題は,身体負荷の増加や疲労の蓄積に伴う関節筋腱板や尺骨神経の損傷,関節変形,手根管症候群などの2次的障害の発症であり,これらを改善するためには,個々人の身体寸法や残存運動機能に適した車いすの処方が重要と考えられる.本研究では,車いすの適合性をバイオメカニクスの観点から定量的に評価し,改善するために,様々な駆動条件下での運動計測,評価,適合を実施する車いすシミュレータを開発した.本シミュレータは,操作部(車輪部)とイスの位置を複数の電動式リニアアクチュエータで調整することで,車いすのシート高さ(車軸の上下位置),ホイールベース長さ(車軸の前後位置),トレッド幅(車軸の左右位置),シート角度,背もたれ角度をパソコンで自由に制御できる.また,使用者の障害レベルや残存機能に応じて操作方式を選択できるよう,ハンドリム式とレバー式の駆動力計測ホイールも製作した. 本年度の実験では,シート高さとホイールベース長さに着目し,上肢長より決定した基準位置を中心に,車軸位置を各方向へと±20mmずつ合計9ヵ所に変更した場合のレバー駆動を実施した.走行抵抗は,パウダーブレーキを用いて1Nm,3Nmに,また,各ストロークの目標駆動速度(ピーク値)は,8.1km/hにそれぞれ設定した.計測項目は,上肢7自由度(肩関節の屈伸,内外転,内外旋,肘関節の屈伸展,手関節の回内外,掌背屈,橈尺屈)の関節角度と,レバーに加えた3次元方向の力とモーメントである.適合評価では,骨格・筋骨格モデルを用いて,関節トルク,筋張力,筋消費エネルギーをそれぞれ算出し,車軸位置の違いにより身体負荷が有意に変化することを示した.このことは,身体負荷の少ない効率の良い車軸位置を探索できることを示唆しており,新しい適合支援装置としての有用性が期待される.
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