Research Abstract |
障害と共に生きる者が増加し, 生き方への援助が重要な課題となっている今日において, 中途身体障害者を対象に, 受障から現在までの自己変容過程に果たす運動・スポーツの役割を検討することは非常に重要である. 本年度は, 中途脊髄損傷者3事例を対象に, 自己概念に関する多面的階層モデルに準拠して, 質的アプローチから自己変容過程を継続的に検討した. しかし, インタビュー事例を増やすことが来年度の検討課題として残された. 検討に際しては, 自己概念に関する多面的階層モデルを理論べースに用いた. その結果, 中途脊髄損傷者は, 受障により身体機能や身体部位の喪失を経験し, それまで存在してきた身体的側面(身体能力, 体型, 筋力など)に関する知覚の喪失や価値あるものの喪失を経験し, 自己が揺らいでいた. 一方, 運動・スポーツを通して, 失われた身体的側面に関する知覚が再定義されることで価値の転換が生じ, 受障による喪失感からの脱却や生きる意味の再定義がなされていた. ここまでの研究の成果の一部をまとめた論文が国内誌に掲載され, 学会賞を受賞したことは, この研究成果の重要性を示すものであったと考える. 今後は, 社会的側面の要因の位置づけを再検討するとともに, よりナラティブなデータを収集し, 自己変容過程のプロセスを明確化していく必要がある. また, 福祉や保健・医療機関, 障害者スポーツの現場従事者を対象として, 客観的な視点からの自己変容過程を検討していく予定である.
|