Research Abstract |
障害と共に生きる者が増加し,生き方への援助が重要な課題となっている今日において,中途身体障害者を対象に受障から現在までの自己変容過程に果たす運動・スポーツの役割を検討することは,非常に重要である.従来の運動・スポーツ科学領域における身体障害者を対象とした研究では,理論モデルの不在や量的アプローチの限界が指摘されてきた.そこで本研究では,自己概念に関する多面的階層モデル(Fox & Corbin, 1989)に準拠しながら,質的アプローチからも検討をすすめてきた. 本年度は,昨年度に実施した中途脊髄損傷者3事例のデータを再考し,今後の研究の方向性を再検討した.3事例の結果から,(1)中途脊髄損傷者は,受障により身体機能や身体部位の喪失を経験し,それまで存在してきた身体的側面(身体能力,体型,筋力など)に関する知覚の喪失や価値あるものの喪失を経験し,自己が揺らぐことや,(2)運動・スポーツを通して,失われた身体的側面に関する知覚が再定義されることで価値の転換が生じ,受障による喪失感からの脱却や生きる意味の再定義がなされることが分かった.これに加えて,関連論文などの結果も踏まえ,来年度は障害者スポーツ指導員や当亊者の家族といった周囲の人々へのインタビュー調査を行い,そこから社会的要因について精査していく必要性があると考えられた. 今後は,当亊者だけでなく,周囲の人々からナラティブなデータを収集し,自己変容過程を総合的に検討していく予定である.
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