Research Abstract |
本研究は, ヒトの温熱的快適性について, 生化学物質の変動より客観的に評価して, 温熱的に快適な着衣システムの構築に貢献することを目的としている. 初年度には, 生化学物質の日内および性周期による変動について, 被験者実験より検討した. 健康な女子大学生5名を被験者として, 性周期2サイクルを対象期間とした. 1サイクル中, 被験者は, 月経・卵胞・排卵・黄体期中, 各期において1日以上実験に参加した. 実験では, 衣服の統制は行わず, 温熱的に中立温度に維持された実験室内に, 被験者を9:00から17:00まで滞在させた. この間, 9:30から16:30まで, 1時間毎に, 唾液アミラーゼ活性値を測定した. 実験時間におけるアミラーゼ活性は, 月経期は35.3-46.1kU/l, 卵胞期は31.3-38.7kU/l, 排卵期は29.2-42.3kU/l, 黄体期は32.3-41-5kU/lの範囲にあった. 二元配置の分散分析より, アミラーゼ活性には, 時間と性周期の主効果は認められなかったものの, 時間と性周期の交互作用が認められた. 下位検定の結果, 実験時間中の月経期におけるアミラーゼ活性は, 他期におけるそれよりも有意に高値であった. 他方, 卵胞・排卵・黄体期中のアミラーゼ活性には, 有意差は認められなかった. アミラーゼ活性の亢進は, 交感神経の興奮によって副腎皮質から分泌されるノルエピネフリンの血中濃度増加による作用と, 交感神経の直接的作用による. このことから, 月経期間中, 他期間よりも, 交感神経活動は亢進したことが示唆された. その要因として, 交感神経の興奮によって血管収縮が生じるため, 月経期中の経血処理による痛みが, 交感神経活動をより亢進させたためであると考えられる. 特に, 月経困難症にある女性は,副腎皮質の反応がより敏感であるため, 月経によってアミラーゼ活性は亢進しやすくなるであろう. 以上のことから, 女性を被験者として, アミラーゼ活性を評価指標に用いる場合には, 性周期を考慮しなければならいことを示した.
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