Research Abstract |
温熱的に快適な着衣システムの構築に貢献する知見を得ることを目的として,本研究では,ヒトの温熱的快適性評価におけるコルチゾールとアミラーゼ活性の有用性について,実験的に検証した.実験では,16名の日本人若年女子を対象とした.前年度の研究成果に基づいて,被験者は卵胞期の期間中に,1日1実験,計4回実験に参加した.実験では,全身と局所の皮膚濡れ率を同時に制御して,唾液中コルチゾールとアミラーゼ活性の分析を行った.同時に,全身と局所における温熱的快適感に関する主観評価を行った.なお,体幹,腕,大腿を対象の局所とした.その結果,体幹の温熱的快適感の閾値は,腕と大腿よりも大きく,温熱的不快感を覚えにくいことが明らかとなった.つまり,局所の温熱的快適感は,部位によって異なる傾向のあることが示された.しかし,全身の温熱的快適感は,局所の温熱的快適感による影響を受けなかった.全身が温熱的に不快感を覚えるまでのアミラーゼ活性は,約40kU/lのほぼ安定した値を示したものの,その後,温熱的不快感が増加するにつれて上昇した.一方,コルチゾールは,本研究の範囲では,温熱的快適性に応じた変動は認められなかった.唾液中のコルチゾールとアミラーゼ活性は,典型的なストレスマーカーであるものの,温熱的不快感に対する反応が異なった.その理由として,副腎皮質より分泌される内分泌系ホルモンであるコルチゾールは,刺激が負荷されてから分泌までに時間的遅れがあるため,温熱的不快感は唾液中コルチゾールに反映されなかった.一方,アミラーゼ活性は,交感神経系の直接作用により時間遅延が小さく,全身の温熱的快適性を反映した.これより,アミラーゼ活性は,全身の温熱的快適感が維持された状態下での変動は小さいが,温熱的に不快な状態下では不快感に応じて上昇し,全身の温熱的快適性評価の指標と成り得る可能性が示された.
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