Research Abstract |
我が国ではライフスタイルの変化によって食生活が多様化し,その結果不足してしまう栄養素を補う目的で,健康食品やサプリメント等の需要が急速に高まっている.一方,妊娠中の母体は,自身の体調維持のみならず,胎児の正常な発育を促すために,非妊娠時とは生理的・生化学的に異なった状態となる.そこで,鉄,カルシウム,亜鉛,銅,マグネシウムといった必須微量元素の栄養状態が,母体と胎児を結ぶ胎盤の機能にどのような影響を及ぼすのかを調べ,妊娠時の栄養状態,ひいては現在の食生活が,母体および胎児にどのような影響を及ぼすのかを調べることを本研究の目的とする.平成21年度は妊娠マウスを用い,必須微量元素の欠乏および過剰摂取が,母体,胎盤,胎児の必須微量元素代謝に及ぼす影響を,臓器および胎児の必須微量元素濃度や,各種金属トランスポーター等のmRNA発現量を測定することにより検討した.その結果,特に食餌からの鉄摂取量を増減させると,臓器および胎児鉄濃度も同様に増減し,二価金属トランスポーターDMT1の発現量は,胎盤および小腸で鉄摂取量に対し負の相関を示した.さらに,鉄摂取量を減少させると,胎児重量が有意に低下し,母体が鉄欠乏状態に陥ると胎児の発育にも影響が及ぶことが示唆された.この他に,FPN1,CaT1,メタロチオネイン等の発現量が,必須微量元素の栄養状態により大きく変動した.これらのことから,妊娠時における必須微量元素摂取量の変動に応じて,胎盤では小腸と同様に金属トランスポーターやメタロチオネインが必須微量元素の恒常性維持を行っており,また,その栄養状態が,母体および胎児に重大な影響を及ぼす可能性が示唆された.
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