Research Abstract |
本研究では, 地域伝統芸能における「わざ」を伝承する際に, 指導者の動作や映像を見ただけでは「分かりにくい・伝えにくい」要素の抽出・伝達手法の確立を目的とし, 意識によって変化しているが, 客観的には判別しがたい要素の可視化を試みている. 本年度は, ソーラン節の櫓漕ぎに着目し, その表現の中心となる体重移動について分析を行った. 指導者は, 「腰の充実感」という感覚的な表現で説明をしているが, その「充実感」を学習者が見ることは不可能である. この充実感とは, 腰部の緩急に関係していることが議論の中で分かり, 加速度センサを腰部に付けて数回踊り, 過去に踊ったときの映像と加速度波形を比較した. 映像だけを比較すると, 指導者は, その違いにすぐに気づくことはできず, 何度も繰り返し見ることで少しずつ違いに気づいたが, 加速度波形にははっきりとした違いが出ており, 「腰が充実」しているときは, 瞬間的な移動によって非常に細く大きいパルス形状が出ており, 細さがその瞬間的な鋭さを表し, 大きさがその強さを表していることが分かった. 取得したデータの傾向から2群に分類できたが, それは, 「腰の充実感を重視して教えていたとき」, と, 「体全体の動きを教えるために大げさに動いていて腰の意識がおざなりになっていた」という意識の違いであることが判明した. これは, 指導者は,全く同じ踊りをしているつもりであったが, 教えるときのシチュエーションの違いによって, 見せるべきポイントが変化していることを示しており, それが数値的に測定できたことになる. 以上の結果から, 「腰の充実感」と, 腰の緩急という物理的な動作の関係が分かり, また, 波形の形状や位置を見ることで, 舞踊の意味やタイミングの捉え方が異なる場合にも指摘できる可能性が示唆された.
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