Research Abstract |
黄砂粒子に付着した微生物(黄砂バイオエアロゾル)が,中国大陸から日本まで飛来し,生態系(動植物や微生物)や人健康へ影響をおよぼす可能性があり,社会的かつ学術的関心が高い。しかし,大気エアロゾルの捕集には高度な技術を要するため,大気中の細菌群についての核心的な報告例は少ない。本研究では,環境ストレス全般に強い耐性をもつ耐塩細菌に注目し,「大気中で生残しやすい耐塩細菌が,黄砂とともに長距離輸送され,生息範囲を広げる」と想定した。 そこで,係留気球を用いて,黄砂の発生源(敦煌市(タクラマカン砂漠))および黄砂飛来地(金沢,珠洲)の上空(地表から高度600-1000m)から黄砂バイオエアロゾルを入手し,以下の知見を得た。1,大気中の細菌群には,15%の高NaC1濃度下でも増殖できる細菌が生息する。2,耐塩細菌群は,遺伝系統分類学的には,主に細菌グループ(Bacillus属)に属した。3,黄砂発生源および飛来地では,共通してB. subtilis種が検出され,株レベルで近縁となった。4,蛍光顕微鏡下でB. subtilisを特異的に観察できる検出法(FISH法)法を確立し,黄砂鉱物粒子上にB. subtilisの細胞が付着し,全細菌数の約8割を占めることが判明した。6,海洋調査も実施し,黄砂鉱物粒子が外洋海水に沈着すると,グラム陽性細菌が増え,それを餌とする植物プランクトンが増えることを実証した。 今回確立した,「長距離輸送細菌種を標的としたFISH法」は,黄砂バイオエアロゾルを直接観察でき,その細菌数も計数でき,モニタリングシステム構築にも役立つ。今後,調査の地点数・回数を増やし,飛行機観測なども併用し,より高高度で網羅的に調査をすすめ,大気中の耐塩細菌群の分散状態を明らかにして行きたい。最終的には,長距離輸送細菌を,迅速かつ簡便に解析できるシステムを確立し,自然生態系,農作牧畜養殖業および人健康への影響を講じるのに有意義な知見を提供し,新たな学術分野を開拓する。
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