2008 Fiscal Year Annual Research Report
電子伝導素子に代わるスピン波束伝播型局在スピン素子の理論的研究
Project/Area Number |
20710076
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
古門 聡士 Shizuoka University, 工学部, 准教授 (50377719)
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Keywords | 量子スピン / スピン緩和 / スピン反転 / 量子ドット / スピン-原子振動相互作用 / 原子振動 / スピン軌道相互作用 / 双安定 |
Research Abstract |
量子スピン系のスピン波束伝播に関して、今年度は伝播の持続に影響を与え得るスピン緩和について調べた。ここでスピン波束とは、連なった磁気モーメントの一部が傾いた励起状態であり、伝播の際、電子の移動は伴わない。また、スピン緩和は励起状態から基底状態への緩和を表し、緩和率が小さいほど波束は存在しやすい。 量子スピン系のスピン緩和の理論は現在までに多く報告されてきた。しかし、熱浴の部分を特定していない模型も多く、今回の現象に適した模型はほとんど報告されてこなかった。 そこで今回はまず単一量子スピン系に注目し、スピン系のエネルギーがスピン軌道相互作用を通して原子振動(単一スピンの振動)へ流れる模型を提案した。具体的には、原子核の微小変位を考慮に入れたスピン軌道相互作用に対し、摂動計算によりスピン-原子振動相互作用の式を導出した。 式の適用例として、スピン注入・局在量子スピン反転におけるスピン緩和を取り扱った。模型は電極/スピン量子ドット/電極接合系である。ドットには1軸性の異方性エネルギー-|D|S_z^2(双安定ポテンシャル, Szはスピンのz成分, Dは定数)を持つ局在スピンS(S=1, 3/2, 2, 5/2)が存在する。このドットにスピンSを注入する際、sとSの間には交換相互作用Js・Sが働くとする。ここで、Sの初期状態を基底状態(S_z=-S)とするとき、スピン緩和無しではSは励起されやすく反転しやすいが、スピン緩和有りではSは基底状態をとりがちで反転しにくくなる。 この模型にフェルミの黄金則とマスター方程式を適用してS_zの時間依存性を求めた。その結果, スピンが半整数(S=3/2, 5/2)の場合は基底状態からの反転が起こり易く、スピンが整数(S=1, 2)の場合は反転が起こり難いことが分かった。この相違はスピン-原子振動相互作用によるスピン緩和率Wの相違に起因する。つまり、整数スピンの方が半整数スピンよりWが大きくSは基底状態に戻される傾向にある。
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Research Products
(6 results)