2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720011
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
佐藤 実 Kansai University, 文化交渉学教育研究拠点, 研究員 (70447671)
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Keywords | 中国 / イスラーム / 人生儀礼 / 回儒 / イスラーム漢籍 / 劉智 / 天方典礼 / 朱文公家礼 |
Research Abstract |
近世における中国ムスリムの人生儀礼研究の具体的な分析として、劉智が著した『天方典礼』の婚姻篇、喪葬篇を検討した。その際に近世中国の人生儀礼を規定した朱熹の『家礼』と比較することによって、中国ムスリムの人生儀礼の特徴がうかびあがってきた。つまり婚礼も喪礼も式の次第にかんしてはきわめてよく似ていて、劉智が『天方典礼』を編む際に、朱熹『家礼』を参考にしていたことが見てとれた。いっぽうで朱熹『家礼』が重視する祠堂、位牌については『天方典礼』では設置されないが、それは悪習として否定するのではなく、「言及しない」という態度で関与していた。 また人生儀礼の実践において、中国ムスリムがじしんを(儒教倫理を支柱とする)中華の秩序をになうフルメンバーとして認識していたことも判明した。したがって祠堂や位牌を真っ向がら否定することはなかったと考えられる。そして儒教との距離の親和についいえば、『天方典礼』の上帝をアッラーとおなじであるとする考え方からも理解できた。中国ムスリム知識人の心性の一端が解明できた意義は小さくないと考える。 文献収集については東洋文庫から馬君実『天方衛真要略』を入手した。本書は乾隆年間に刊刻されたとされる儀礼書であり、これによって『天方典礼』との比較もおこなうことができ、より立体的な儀礼研究が期待される。 『天方典礼』の電子テキスト化は関西大学が所有するデータベースの利用により終了し、現在校訂作業をおとなっているところである。 平成20年度は海外調査を予定していたが、諸般の事情により実行できなかった。平成21年度は是非ともおこないたい。
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