2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720018
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐藤 吉幸 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 講師 (90420075)
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Keywords | 国家の残虐性=暴力性 / 資本主義の残虐性=暴力性 / 差異主義的人種主義 / バリバール / マルクス / デリダ |
Research Abstract |
今年度は、デリダ哲学における国家と資本主義の暴力(「残虐性」)に関する考察の延長として、マルクスとバリバールの哲学を取り上げ、グローバリゼーションの時代における国家と資本主義の「残虐性」について考察した。 まず、マルクスの『資本論』を依拠しつつ、労働力の搾取、「相対的過剰人口」の生産といった、資本蓄積にともなう資本主義の「残虐性」は、剰余価値の実現を目指す資本の論理そのものに内在することを確認した。 また、バリバール=ウオーラーシュテイン『人種、国民、階級』に依拠しつつ、グローバリゼーションの時代における人種主義と国家装置の関係を分析した。バリバール=ウオーラーシュテインによれば、グローバリゼーション下の資本主義システムは、世界経済において中核国による周縁国の搾取の構造を再生産し、また中核国による周縁国からの移民労働力の取り込みによって、中核国の内部に「国内第三世界」を形成する。 とりわけ同書のバリバールによれば、今日の人種主義は「人種」という生物学的カテゴリーに依拠するものではなく、むしろ文化的差異の還元不可能性によって特徴づけられる「差異主義的人種主義」へと姿を変えている。そのような差異主義的人種主義を生産するのは、近代国民国家が創出する「虚構的アイデンティティ」であり、それはとりわけ、国民教育のような国家のイデオロギー装置による「内的国境」の生産と切り離すことができない。グローバリゼーション下の移民労働力に対する「差異主義的人種主義」の拡大は、こうして国家のイデオロギー装置が生産する「内的国境」の論理と切り離すことができない。資本主義と国家の結節はこうして互いを再生産し、資本主義と国家そのものに内在する「残虐性」を再生産しているのである。
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