2009 Fiscal Year Annual Research Report
中世日本社会における宗教思想と技術―職能による世界観の構築―
Project/Area Number |
20720021
|
Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
松本 郁代 Yokohama City University, 国際総合科学部, 准教授 (60449535)
|
Keywords | 中世王権 / 職能民 / 三種神器 / 宗教職能者 / 聖と俗 / 天台僧 |
Research Abstract |
本研究の目的には、(1)中世における宗教者の動向、(2)日本的「聖地」の思想的位置、(3)中世王権の文化史的研究と歴史的文脈が挙げられる。本年は、宗教職能者の社会的位置づけと社会的位相、宗教思想が生み出す中世王権の実相、さらに、宗教職能者が持つ宗教技術としての呪術や加持祈祷の意味について考察した。特に、宗教職能者が生み出す「聖」「俗」の区別は、聖地を創造するというより、日常のなかに聖俗という社会的秩序や区分を作り出すことが職能の前提にある。よって、職能による聖地化とはいわば修法の思想から生み出される世界観に基づく。さらに、宗教を職能とする職能民の労働形態に定住と非定住がある。職能民が描かれた絵画資料には、定住職能民しか描かれなくなっている点から、彼らの職能を介した社会における「聖」と「俗」世界の境界線を読み取ることができる。また、職能的宗教者がおかれた社会的視線と、視線に基づく描き分けられ方について論じた。中世の宗教思想に教義的側面と実践的側面がある点は従来指摘されているが、これ以外に社会的に咀嚼され形成された新たな宗教思想の在り方も加える必要がある。本研究では、宗教技能や技術を専門として生活を送った人々を宗教職能者と称すが、平安時代末期から南北朝時代にかけては権門寺院の僧も同様の活動を送っていた。それは、天皇の元に出入りしながら、新たな密教的な王権解釈を行う天皇護持僧などである。特に南北朝時代は天皇家の分立が政治のみならず宗教界をも巻き込んだが、問題点は二つの王権をどう職能化するかというものである。特に、平安時代以降に蓄積された三種神器に関する密教的解釈を推進したのが天台僧であったことから、彼らの王権構想について考察を試みた。中世における宗教職能者とは、宗教を専門とする職能を有しつつ、宗教の在り方を宗教の内側と外側から変容させる個性と呪力を有した者であったと考えられる。かかる職能による世界観とは、思想の中に構築されるのではなくて、活動そのものによって構築されると結論付けることができる。
|
Research Products
(3 results)