2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720022
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
高木 真喜子 東京芸術大学, 美術学部, 助教 (20463945)
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Keywords | 国際ゴシック様式 / 中世フランス絵画 / 写本挿絵 / ロアンの画家 |
Research Abstract |
シャンパーニュ地方トロワの工房を独自の源泉とし、ブルターニュ地方の時〓書に何らかの影響が見られるという、〈ロアンの画家〉およびその工房を中心とした図像および様式の伝承の経路を想定し、(1)具体的な作例に基づいてそれを論証すること、(2)その現象の美術史的な意義を問うことが本研究の目的であった。最終年度であった22年度は、初年度から継続的に収集した画像等の資料に基づき、(1)について具体的に幾つかの図像に着目して考察を行い、(2)としてその成果をまとめることに努めた。大まかな概要は以下の通りである。 ・〈ロアンの画家〉の様式はトロワの工房の地方様式に端を発するが、パリを中心とする芸術的環境の中で生み出された革新的な作例は、パリの画家たちにも比肩しうる造形表現力という点において、単なる地方様式に留まるものではなかった。しかし、その影響は再び、異なる地方様式へという方向性を辿ったと見做さなくてはならない。 ・〈ロアンの画家〉の様式を翻案して受け継いだブルターニュの写本挿絵は、図像表現を継承しているだけでなく、当時の不穏な社会状況を反映したかのような表現主義的な様式という点においても、〈ロアンの画家〉の特質を受け継いでいると言える。このことは、死や審判への恐れを基調とするような、優美な国際ゴシックの芸術の異なる一面を示す造形が、画家の強烈な個性から単発的に生み出されていたのではなく、何らかの接点を持ち、様相を変えつつも、伝承されてゆく筋道を見出すことができることを示している。 ・その筋道は、本研究で着目したものだけでなく、国際ゴシックの芸術全般に亘って緩い網の目のように広がっており、美術様式の発展史的な方向性とは一致せず、また一定の方向性を持つことなく関りあっていたと考えられ、考察の対象を広げた更に包括的な研究を今後の課題としたいと考えている。
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