2010 Fiscal Year Annual Research Report
「エフタル期」の図像資料の特定と考察:バーミヤン、ソグド、クチャを中心に
Project/Area Number |
20720024
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Research Institution | National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo |
Principal Investigator |
影山 悦子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 特別研究員 (20453144)
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Keywords | 中央アジア / 美術史 |
Research Abstract |
エフタルは広大な地域を版図としたが、エフタルが自ら残したことが確実な造形資料は、彼らが発行したと推測されるコインと、エフタル王の名が刻まれた印章のみである。本研究では、エフタルの風俗や「エフタル期」の美術を間接的に示す資料の検討を行った。 エフタルの風俗として、鳥翼冠または三面の三日月冠をつけること、また長衣の右襟だけを折り返して着用することを挙げることができる。そのような冠と長衣を身に付けた人物は、バーミヤン石窟東大仏天井画の王侯貴族の中に見られる。頭飾りはつけないが、長衣の右襟のみを折り返して着用する人物は、アフガニスタン北部のディルベルジン・テパ遺跡出土壁画の人物像、ウズベキスタン南部のバラリクテパ遺跡出土壁画の人物像、ウズベキスタン南部出土のテラコッタ像、新疆のキジル仏教石窟第8窟、69窟、104窟、207窟、224窟、新1窟の供養者像、同じく新疆のクムトラ仏教石窟第23窟の供養者像、エルミタージュ美術館所蔵銀碗の人物像などに認められる。これらの資料の製作年代は、5世紀から7世紀頃に推定されているが、エフタルが中央アジアに勢力を拡大した5世紀後半から6世紀前半に限定することができるかもしれない。エフタルの風俗を表す資料ではないが、500年の製作と推測されるソグドのペンジケント遺跡第I神殿壁画の供養者は、キジル石窟、クムトラ石窟の供養者像と多くの共通点を持つ。また、エフタル期に製作されたと推測される銀碗2点は、上述の銀碗とサイズとかたちが酷似する。バーミヤン石窟東大仏とキジル石窟第8窟に対しては、放射性炭素による年代測定が行われているが、その結果もこの推測と矛盾しない。 ソグディアナでは、長衣の右襟のみを折り返して着用している人物が一例も見つかっていないが、鳥翼冠は8世紀前半の壁画にも数多く認められる。「エフタル期」に広まった冠が定着し、次第に形式化したと考えられる。
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